何かと騒がしい国会だが、間もなく「統合型リゾート(IR)実施法案」の審議が始まる。ご法度だったカジノを解禁する法律だが、ここで注目されているのが「ギャンブル依存症」だ。ついつい賭け事をやめられない「意志の弱い人の問題」と思いがちだが、本当か?【吉井理記】
誰でもなり得る病気/脳内「快楽物質」が関与/自助グループに相談を
記者も学生時代、競馬などのギャンブルをした。ちょっぴりもうけたこともあるけれど、ほとんどはお金をすってばかりで、嫌になってすぐにやめてしまった。競馬を趣味にする知人もいるが、有名なレースの馬券を買う程度。やはりのめり込む状態とはほど遠い。ならば、ギャンブルをやめられず、借金を繰り返す人は意志の弱い、だらしない人なのではないか。ギャンブル依存症について、恥ずかしながら、そう考えていた。
「全然違います。不勉強も甚だしい。ギャンブル依存症という言葉そのものは、かなり社会に浸透してきましたが、理解はまだまだ進んでいません。依存症患者は誤解に取り巻かれていると言っても過言ではないのです」とため息をつくのは、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表だ。回復を目指す自助グループで、本人やその家族の相談に乗り、精神科医のアドバイスも受けながら患者同士で交流する。田中さんは「誤解をもとに患者に接すると、より問題を深刻にすることもあります」と警告する。
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「誤解」とは何か。まず大切なのは、ギャンブル依存症は人格の問題ではなく、れっきとした病気であることを理解することだ。
「世界保健機関(WHO)でも『精神疾患』の一つとして分類されています。本人の意志や気の持ちようだけで、何とかなる問題ではありません。要は本人の意志とは関係なく、ギャンブルをせずにはいられなくなる状態です」と田中さんは続ける。
厚生労働省によると、発症には脳内の快楽物質「ドーパミン」が関わっているとみられている。ギャンブルをすると、ドーパミンが分泌され、快感を覚える。ギャンブルを繰り返すと、より強い刺激が欲しくなり、さらにギャンブルを繰り返す--と考えられているのだ。日本では、成人の3・6%、約320万人(厚労省による2017年度調査の中間集計)が依存症が疑われる状態になったことがある、と推計されている。
人間はいろんなものに依存して生きている。嫌なことがあれば、映画や音楽を楽しむ、旅行に行く、お酒を飲む、友人や家族とおしゃべりする--などで発散する。ギャンブルがその一つに過ぎないのなら問題ないが、ギャンブルだけになると、依存症になる可能性が高くなる。
「本来ドーパミンは、何かを達成した、といった時に分泌されますが、ギャンブルでは安易に分泌され、快感を手に入れることができる。これが習慣化すると、ギャンブル以外のことを楽しいと感じなくなり、やっていないとイライラするようになる。ギャンブル依存症とはそういう状態なんです」と田中さん。
実は15年ほど前まで、田中さんも、夫ともども依存症患者だった。夫が大の競艇好きで、デートの行き先も競艇場。やがて田中さんもすっかりハマった。仕事中もトイレに行くふりをして、電話で舟券を買わなければ我慢できない。子どもも2人いるのに、蓄えも底をつき、借金もする。ますますストレスを感じ、ギャンブルをせずにいられなくなる。旅行に行っても、旅先で競艇場を探す始末。
さすがに「おかしい」と感じ、インターネットで情報を探すうち、自分たちが依存症であることや自助グループの存在を知り、立ち直るきっかけを得た。
「もう一つ理解すべきは、もはや患者は『勝ち負け』を意識できる状態にない、ということ。私も『ギャンブルなんて勝てないからやめろ』と言われました。そんなこと、分かり切っています。でも、ひどい時は数時間おきに、ギャンブルをしないと気が済まない、いても立ってもいられない強い衝動に襲われる。患者は、そんな筆舌に尽くしがたい苦しみを抱えているんです。『お前は意志が弱い』といった言葉はますます患者を追い詰め、事態を悪化させます」
ならばどうするか? 今のところ、医学的な治療手段はなく、患者同士で寄り添いつつ、時間をかけて回復を目指す自助グループの活動に頼るしかない。
「まずはこれらのグループに連絡を取ってほしい。例えば前出の『衝動』に襲われれば、仲間に電話して自分の苦しみを心ゆくまで聞いてもらう。同じ苦しみを抱えているからこそ、心が通じる。これだけでずいぶん違ってきます。『とりあえず、今日だけはギャンブルを我慢しよう』と思える。小さな変化ですが、大きな一歩なんです」と田中さん。
各地のグループはインターネットで調べられるし、最寄りの自治体や保健所で紹介してくれることもある。本人が嫌がっても、家族向けのグループがある。家族が依存症について理解を深めれば、本人への接し方も変わってくる。よりストレスの少ない物言いで、グループへの参加に導く可能性が開けてくる。
大切なのは、本人に強制しないこと。治療ではないが、病院できちんとギャンブル依存症と診断されることも、回復に向けた第一歩を踏み出すための後押しになる。患者は自分を依存症とは認めたがらないからだ。
田中さんがまとめた。「一朝一夕には回復しない。私の場合、5年もかかりました。最初は自助グループに、人生の負け組のような人たちが集まるイメージがあって、参加するのが嫌でしたが、とんでもない。みんなごく普通の人たちでした。つまり、ギャンブル依存症は、だれでもなり得る病気なのです」。だからこそ、安易にカジノを作る前に、世にあふれる誤解を解いたうえで、改めて国民的な議論に付すべきではないのか。
引用元
https://mainichi.jp/articles/20180419/dde/012/040/007000c
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