「大人の発達障害」のアノ人とうまく付き合う方法
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いつもミスばかりする、人の話を聞かない、空気が読めない発言が多い……、あなたの周りにもこんな人、いませんか?
発達障害に近い傾向がある、“ちょっと人と違うな”と思う人と上手く付き合うにはどうしたらいいのか、発達障害に詳しいどんぐり発達クリニックの宮尾益知院長に話を伺いました。
■子どもの頃は、うっかりさん
「あるADHD(注意欠如多動性障害)患者さんに、子どもの頃からケアレスミスが多い、いわゆる“うっかりさん”と言われていた20代の男性がいました。落ち着きはないものの、人当たりはよく、積極的でもあるので、クラスの人からは好かれていました。
しかし大学に入った頃からアルバイト先でミスが続いて叱責を何度も受け、結局クビになってしまった、大学のレポート提出を忘れてしまって単位を落としたなどのトラブルが続くようになり、疲れがひどくて朝起きられない、憂うつな気分が抜けないなど身体の不調が出るようになりました。
内科へ行っても特に問題ないと言われ、精神科に行ったものの『うつ病』と呼ばれ、抗うつ薬を飲んで治療を続けたものの快復せず、巡り巡って当院を受診しました。そこでADHDだということがわかり、治療を続けたところ、予定を組んだり、時間を守ることができるようになりました」
■大人の発達障害 2つのパターン
「発達障害の中には、知的に問題がある人や、子どもの頃に診断を受けている人もいますが、最近特に注目されているのが、知的には問題がなく、現在診断を受けていない、いわゆる『大人の発達障害』と呼ばれるものです。
大人の発達障害の中には、アスペルガー症候群とADHDの2つがあります。
アスペルガー症候群は、こだわりの強さやコミュニケーション面の困難さ、感覚過敏や鈍麻(感覚が鈍くなること)などの特性があり、視覚的で、目で見て理解するほうが強く、ゼロかイチかの極端な考え方をする傾向にあります。
一方、ADHDは『不注意』『多動性』『衝動性』の特性があり、落ち着きがなく、いい加減で、思い立つとすぐに何かをやってしまう傾向があります。どちらかというと、言葉や文章に強い人が多いです。
どちらも人間関係のトラブルを抱えたり、仕事でミスを多発したりしますが、その違いは次のようにあらわれます」
■アスペルガーとADHDの違い
【対人関係】
アスペルガー:他人の気持ちを汲み取れない
ADHD:他人の気持ちは汲み取れるが、自分の思いが先走ってしまう。(自己中)【整理整頓】
アスペルガー:気に入ったものしか持たない、使うと意識からなくなりカメラアイとして覚えればどこに何があるかわかる
ADHD:衝動的に買ってしまう、忘れ物が多く、整理整頓は苦手。片付けられない【集中力】
アスペルガー:同じパターンで行動することで安心感を得る。好きなことや場所と時間、段取りが身につけば高い集中力を発揮する
ADHD:本当に好きなことに対しては過集中するが、本当にしなければならないことは後回し、周囲が雑然としていると集中力を持続できない【仕事】
アスペルガー:作業の一部分にこだわり、全体としてみることができない。優先順位をつけることができない。目的をやり遂げるまでの手順を考えることが苦手。目標を積み重ねて完遂させる。
ADHD:計画的なタスク管理や同じ作業を続けるのが苦手、仕事の過程を意味づけして説明する。【感覚異常】
アスペルガー:五感のうちどれかが過剰、あるいは鈍麻(感覚が鈍いこと)がある
ADHD:感覚の問題があることは少ない。アスペルガーとADHDは一見すると見分けがつきにくいものですが、このように違いが表れます。わかりやすいのは、向いている仕事です。
■アスペルガーに向いている仕事
マーケティングデザイナー
ウェブデザイン
リサーチャー
税理士
調整作業
工場の流れ作業
セキュリティ
芸術職■ADHDに向いている仕事
本人に興味のある仕事
IT
マスコミ
小規模の貿易業
営業「アスペルガーの人は、同じことを繰り返しやることが向いており、一方でADHDの人はITなど人と対することなく自分のペースでできるような仕事に向いています。
ADHDの向いている職業に挙げられている『小規模の貿易業』というのは、大規模の貿易会社だと決まった物しか扱いませんが、小規模なら売れそうなおもしろそうなものを探しに行くわけですから、興味関心が移りやすいほうが、思いがけず成功することがあります。ADHDの人は自分の興味がいつも頭のどこかにあり、感性が独特で『目の付け所がシャープ』というわけです。
また、営業職に向いているとされるのはADHDですが、アスペルガーの人が向いているものもあります。
例えば同じ車の営業でも、いわゆるブランドカーといわれている外国車はアスペルガーの人ほうが向いているようです。こだわりが強く、『この人の言うことは信頼できる』と思わせてしまうのです。しかも、着ているものも趣味のよい一流のことが多い。実際、私の患者さんの父親でアスペルガーの男性で、外国車メーカーの営業トップになったという方がいます」
■アスペルガーの人には「具体的に伝える」
「では、どうしたらうまく付き合うことができるのか。まずは、彼らの特性を理解することが必要です。
アスペルガーの人は、記憶を写真のような画像で覚えていることが多く、時間経過で物事を考えていきません。人の気持ちを思いやることができず、相手の人がなにを考えているのか分からないので、自分がどうしたらよいか分からないことが多くあります。
ある患者さんは『世の中は舞台の上で芝居が行われているようなもの。神様がストーリーを書いて演出しているのを自分は見ているだけ』と表現したのですが、舞台上のことだから、相手が斬られていても痛みがわからないし、気持ちも理解できないのです。
この子どもは「今日から僕は舞台に上がります」といって友達と積極的につきあうようになりました。たくさん失敗もしましたが、私は彼のことをずっと応援しています。
アスペルガーの人とうまくつきあうには、この特徴を逆手に取って、ト書きを書いて渡すこと。どういう情景なのか説明すること、どんな気持ちなのか説明することが彼らへのサポートになります。
アスペルガーの人に『察してほしい』は通用しません。なるべく具体的に『こうだからこうしてください』と伝えるのです」
■アスペルガーが原因で夫婦喧嘩する理由
「旦那さんがアスペルガーのご夫婦の話ですが、結婚する際に奥さんが『私は誕生日が母の日と近いから、これから誕生日プレゼントはカーネーションの花束でいいわ』と言ったそうです。
すると旦那さんはスーパーで売っているカーネーション1本をビニール袋に入れたまま『ふん』と言って渡しました。
奥さんはスーパーで売れ残りのカーネーションを買ってきたんだと思い、自分の価値をこのカーネーションになぞらえて悲しくなったそうです。
しかし旦那さんは『誕生日にカーネーションが欲しいと言ったからその通りにした』と悪気は全くありません。高いカーネーションの花束とスーパーで売れ残ったようなのカーネーションの花束とに差を感じないわけですから。それで合っていると思っているのです。
自分の趣味がカーネーションであればもちろん価値の差は認めることはできます。
だから、もしすてきな、自分が愛を感じる花束が欲しい場合は『日比谷花壇の3500円くらいの、少しかわいいカゴに入ったものをくれると嬉しいな』とより具体的に伝えればよかったのです。
また、アスペルガーの人は切り替えが下手なので、ある話をしているときに急に違う話を切り出すとフリーズしてしまいます。同時に二つのことをすることも苦手です。
アスペルガーの旦那さんを持つ奥さんにはいつも、旦那さんが家に帰ってきた途端、子どもの話などをして判断を仰ごうと思っても即答は期待しないでくださいと伝えています。
会社モードの頭と家庭モードの頭とは価値観が全く違うからです。冷徹客観的、利益第一、即決即断の会社の頭では家庭生活の判断ができないのは当然だと思いませんか。
会社頭を家庭頭にきりかえる時間を意識して取ること、時間は15分ぐらいがよいでしょうか。私は、30分は必要だと思うのですが、そこまで待ってあげるほど、現在の家庭生活はのんびりしていないでしょう。
簡単な報告をすることから始め、重要な相談をする場合にはパワーポイントなどで資料を作って渡しておくなどしておき、時間のあるときに返事をちょうだいという余裕を持ちましょう」
■ADHDの人には「おおげさに褒める」
「ADHDの場合は、質問に対し即答はできるのですが、内容が多すぎると分からなくなります。
最初に全体の話をして、小さいことは関連させながら話していくとよい答えを出してくれます。多すぎず長すぎずがコツです。ワーキングメモリーが小さいので全体から部分に切り込みます。
彼らは、話すときに、だらだらした話になり要点が分からないことがよくあります。要するに何が言いたいのと叫びたくなりますが、少し我慢してみましょう。もう少しで結論が聞けるはずです。
記憶の入り口が小さいので、奥底に入った記憶を出してくるにはすごく時間がかかるのです。
行動力があり、アイデアを出すことは得意ですが、細かいところに注意が向かず、失敗することがあります。アイデアと行動力を褒め、間違いを防ぐ工夫を一緒に考えましょう。
約束を忘れたりすることも多いので、リマインドを何度もするなどの工夫も必要です。
ADHDの人は、目の前の褒美に飛びつく傾向があります。我慢すれば大きい団子が食べられるよ、と言っても目の前の小さな団子を食べちゃうという感じです。
だから日々、当たり前のことをしたくらいでもおおげさに褒めると、俄然やる気を出してくれます。逆に怒るとやる気をなくします。こうして欲しいとつぶやくことも効果的です」
■彼らが時間を守れない理由
「唯一、アスペルガー、ADHDともに共通するのが、時間を守れない人が多いことですが、その理由は異なります。
アスペルガーは、時間を量として理解できず時刻として理解しています。どのくらいの時間がかかるのか、どのくらいの時間が経過したのかが分からないのです。
15分くらいの短い時間なら『歯磨きして、トイレに行って寝るまでの時間』などと考えることができるので、量を実際の単位として理解できるようになります。ハンバーガーとポテトを食べられる時間だねと言っても良いかもしれません。15分ごとに区切っていくことが大事です。
ADHDは、ポジティブ思考の人が多いので、できると思って余分に詰め込んでしまうために時間を守れないことが多くあります。
例えば、新宿まで急行で20分で行けるところなら、普通は『急行が来ないかもしれない』『電車が止まることもあるかもしれない』と考えて少し早めに出ようと考えますよね。
しかしADHDの人は25分前に出ればいいと思ってしまうのです。そうすると、急行が来ない、駅を出ておりてから道に迷うなどして大遅刻することになるのです。
だからADHDの人には、決まったパターンを作ってしまうことをお奨めしています。こだわりにすればできる特性を生かして『新宿に行くなら1時間前に家を出る』というパターンを作ってしまえばいいのです。
考えたり行動するときの基盤として発達障害があります。病気と考えるのではなく、うまくできるよう、そして周囲もイライラしたりしないよう、うまい付き合い方をお互いに覚えていけるといいのではないでしょうか」
(大場 真代)
引用元
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