トランプは世界最強ナルシストかもしれない 何が彼を突き動かしているのか
東洋経済オンライン2017年2月7日07時00分
過激な言動で世界を揺るがし続ける米新大統領、ドナルド・トランプ。これまで、本連載では、その巧みな人心扇動術や老獪な交渉術について分析してきた。
分析する過程で、これまでの政治家と同じ物差しで見てはいけないということはわかってきたが、まだまだ、解せないことばかり。そこで今回は、彼の言動からその「頭の中」をのぞき、いったい何がトランプを突き動かしているのかに迫ってみた。
見えてきたのは至極単純だが、厄介な思考パターンだ。日本は、このアノマリー(法則・理論からみて異常、または説明できない事象や個体等、科学的常識、原則からは説明できない逸脱)にどう対峙すべきなのか。
■根本となる価値観が見えにくい
コミュニケーションの基本動作はまず「(相手となる)ターゲットを知る」ことだ。その意味でも、トランプという人は実に興味深い。常識を超えた言動は、われわれの脳裏に蓄積された「政治家」像からは大きく乖離する。不動産業やショービジネスという世界の中で培ってきた独特のコミュ戦法によって、「世界最高の権力者」の地位を手に入れたわけだが、その根本となる価値観や主義・主張はなかなか見えにくい。これまでの共和党的価値観からも大きく外れ、一貫性があるようでまったくない思いつきのように見える政策も多い。そんな常軌を逸した言動に、いったいどのような軸があるのだろうか。
彼のツイートや発言につぶさに観察すると、気づくのは、とにかく「自分が大好き」であることだ。「神が作り上げた大統領の中でも、最も雇用を生み出すのは自分」「私はハンサムだ」「私は偉大だ」。口を開けば、ひたすらに「自分がいかにスゴイか」のアピールがあふれ出してくる。
アメリカ人だから普通、ということではなく、ここまで厚顔無恥に自画自賛する人はそうそういない。とにかく「自分が好きで仕方ない」。だからメディアの関心を集めることに血道を上げ、自分が表紙になった無数の雑誌をオフィスの机の上や壁中に飾り、悦に入っている。
2015年9月、そんな姿をとらえたCBSテレビの取材陣に対し、トランプはこう答えている。「私はとにかくたくさんの雑誌の表紙になっている。たぶん、どんなスーパーモデルよりも多いね。でもそれは、人々が私のことを尊敬している、ということなんだ」。
■精神疾患?
これを少々度の過ぎたナルシストととらえることもできるかもしれない。しかし、こうした過度の「自己愛」こそが、彼を規定する根本的な精神疾患であると、アメリカの多くの精神科医や心理学者が指摘している。そもそも、アメリカでは、心理学者や医師が、自分が直接、診察をせずに公の人物について診断をし、メディアに話してはいけないという「ゴールドウォータールール」というものがある。
そうしたルールを破って、ハーバード・メディカル・スクール、カリフォルニア大学の教授ほか、数々の専門家が声を上げ始めたのだ。もちろん、主治医以外は誰も、確定診断は出せないわけだが、もし仮に、こうした傾向を彼が持っているとすれば、実に多くの言動に極めて明快に説明がつく。
「アメリカ精神医学会の分類と診断の手引き」によれば、自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personal Disorder)と呼ばれる精神疾患の診断基準は以下のとおりだ。このうち5つ以上当てはまれば、その可能性が高いとされる。
1.自己の重要性に関する誇大な感覚(自分の実績や人格を誇張し、優れていると認められることを期待する)。
2.限りない成功や権力欲にとりつかれている。
3.自分が「特別」であり、「独特」であり、「特別な地位の高い人々や組織だけに理解される」と信じている。
4.過剰な称賛を求める。
5.特権を持っていると感じている。つまり、特別に有利な取り計らいを受けたり、自分の期待が自動的にかなえられることを期待する。
6.対人関係で相手を不当に利用する。自分の目的をかなえるために、他人を利用する。
7.共感の欠如。他人の気持ちや欲求を認識しない。
8.しばしば他人に嫉妬する。もしくは、他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9.尊大で傲慢な行動、態度。
ナルシシズムは、持って生まれ、死ぬまで変えることのできないアイデンティティであり、他人にとっては付き合うのは非常に難しいタイプだ。羞恥心や罪の意識がなく、すべてにおいて自己中心的。特に、ナルシシズムに反社会的人格障害、攻撃性、サディズムが合わさった「悪質性ナルシシズム」と呼ぶ状態になると、誇大化、衝動性、批判に対する過剰反応、現実と虚構が見分けられない、ルールに対するモラルが低いなどの気質を呈してくる。
こうした人が巧妙なコミュ力を持ち、優れたストーリーテラーであった場合、人々を盲目的に従属させ、恐ろしい混乱を招く可能性があり、テロリストや独裁者など多くの歴史的人物がこのカテゴリーに当てはまるといわれている。
非常に傲岸でありながら、自尊心がもろいところがあり、称賛をされたい欲望が人一倍強い一方で、邪魔をする人や敵対する相手に対しては、激怒し、容赦なく打ちのめすのが大きな特徴だ。だから、ちょっとした批判にも過剰に反応する。
トランプの言動で、最も理解に苦しむのが、「批判に対する耐性の驚くべき低さ」だ。どんな小さなからかい、非難にも耐えられず、必ず、すさまじい勢いで反撃する。「なぜ、彼がささいな批判も聞き流せないのか」はアメリカのメディアや国民の大きな疑問であり、つねに「thin-skinned」(批判に敏感すぎる)と揶揄されてきたわけだが、仮に、上記のようなタイプであったとすれば、腑に落ちやすい。ナルシストを言下に否定することは「地雷のピンを抜くようなもの」なのだ。
また、トランプのツイッターを見ると、MAKE AMERICA GREAT AGAIN! SAD! BAD! などと大文字とビックリマークが多用されており、なぜこんなに強調するのか不思議でならなかったが、これもナルシストの典型的な主張の仕方のようだ。「すべてを大文字で記し、ビックリマークも多用するような、とにかく、人々の関心を今すぐ、惹きつけようとするコミュニケーションが特徴」(Psychology Today)とある。
■すべてを二元論で片付けている
重ねて言うが、筆者はトランプの精神鑑定はできないし、確定診断をしているわけではない。あくまでも仮説でしかないが、こう考えると、彼の思考パターンは格段に読みやすくなる。彼の頭の中では世の中のものと人は「善と悪」「支持者と非支持者」という2つしかない。すべてが二元論で片付けられる。支持者=善、反対者=悪なのだ。彼の政治的主張や信条を伝統的な共和党・民主党といった軸で測ろうとすれば見誤る。彼の中の判断軸は、「支持してくれる人にどうやったらもっと愛されるのか」「敵対してくる相手をどう叩きのめすのか」なのだ。
もともと、彼は中絶やLGBTQなどに対して、比較的リベラルな考えの持ち主だったといわれる。支持者や取り巻きにもっともっと称賛されたい、認められたい、と考えるうちに、どんどんと彼らの考えに近づいていったとも考えられる。もちろん礎には彼のもともと持っていた確固たる思い込みや信念があるが、それと同時に、彼の中には、人々の「称賛」や「敵意」を何倍にも膨らませて映し出す「拡大鏡」があり、そこに映し出されるものに考え方が大きく影響されているような気がするのだ。
トランプの長年の友人でラジオパーソナリティのハワード・スターンはこう言っている。「彼はとにかく好かれたいんだ。愛されたいんだ。人々から歓声を受けたいんだよ。だから、大統領になって、(こうやって批判されることは)彼のメンタルヘルスを傷つけることになる。彼は出馬すべきじゃなかったんだ」。
トランプを突き動かすのは「褒められたい」「愛されたい」という思いなのかもしれない。これは人間の根源的な欲求だ。しかし、あまりに肥大化した承認欲求は、つねにそうした飢餓感から抜けられない、脆い自尊心の裏返しともいえる。強い自我を持っているようで、周囲に流されやすい。そういった側面も持ち合わせているようにも感じる。
さてさて、かように厄介な同盟国のリーダーと、日本はどのように対峙していくべきなのか。それについては、次回の原稿で改めてじっくり考えてみることにしたい。
(文中敬称略)
引用元
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コンパス心理士 カウンセリング相談事務所
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班目幸寛(まだらー)
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