59歳社長の自殺を招いた「酒による擬似うつ」 | 健康 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

59歳社長の自殺を招いた「酒による擬似うつ」

「もはや進退窮まれり!」の前に酒をやめよ

エグゼクティブは孤独で多忙。しかし、彼らが心を病んでしまう直接の原因は、別のところにあるようです(写真:xiangtao / PIXTA)
「うつ病」――。現代人にとって身近なこの病気ですが、患者数が増えてきたのは、21世紀に入ってからだということを知っていますか?
獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授の井原裕氏は、その背景に日本社会特有の”不眠不休信仰”などからくる「絶対的な睡眠不足」があるといいます。実際に診療科を訪れるビジネスパーソンたちの実情を通して、彼らが苦しむ、うつ病の「傾向と対策」をお届けします。

隣の韓国では、朴槿恵大統領が一友人に機密情報を漏らしていた疑惑が生じ、大きな問題になっています。この事件に関しては、まだ捜査段階ですので、これ以上の言及は控えますが、背景に彼女の孤独があったことは、十分に推測できます。この機会に、エグゼクティブのメンタルヘルスの問題を考えてみたいと思います。

“孤独すぎる”エグゼクティブの日常

エグゼクティブは、一様に多忙であり、かつ、孤独です。いつも忙しく人と会っていますが、機密情報を扱っているために、情報をどの範囲で伝えるかにいつも迷っています。つねに、この問題については誰を信用して正確に伝え、誰には伝えないでおこうかを考えなければなりません。これらの複数案件を同時進行で進めながら、日常のルーチン業務もこなしていく必要があります。

そして、内心ではどんなに迷っていても、リーダーシップを発揮するために、組織全体に対しては毅然とした態度を貫き、決断したら前を向いて進まなければなりません。

エグゼクティブの仕事の全体像を把握しているのは、自分だけ。権限が大きい一方で、責任も重い。重大な案件を前に、独り自室で震えていることもあるでしょう。

エグゼクティブ自殺の裏に「多量のアルコール」

ただ、実際にエグゼクティブとお会いして感じるのは、必ずしもこのような仕事の厳しさがこころの健康を損なうかというと、意外にそうでもないことです。

伊藤忠の元会長、丹羽宇一郎氏が発言しているように(『人は仕事で磨かれる』)、仕事だけで体が壊れることは決して多くありません。エグゼクティブのような職位の高い人は、強靭的な体力を持っていることが多いため、特にそうです。

健康を害するのは、仕事自体ではなく、むしろ仕事に付随する生活習慣の要因が大きいのです。エグゼクティブが窮地に追い込まれて自殺することはありますが、多くのケースでその直前のアルコールや睡眠薬の乱用があります。精神科医の私からすれば、「アルコールの入っていない冷静な脳で判断すれば、起死回生の一手も浮かんだかもしれないのに」と思うことがしばしばです。

遠藤一郎さん(仮名、59歳)は、自殺目的で抗うつ薬、睡眠薬、頭痛薬をウイスキーと一緒に大量服用して、救命救急センターに搬送されました。幸いなことに一命を取り留め、覚醒後に事情を伺ったところ、地方都市で経営していた金属加工の会社で経理不正が発覚、監督責任を問われて連日事後処理に追われていたということです。

それと同時に、不眠・抑うつ症状が現れ、隣県の心療内科医院を受診。以来、抗うつ薬と睡眠薬が処方されていました。ただし、断酒指導は行われておらず、連日2~4合の飲酒を続けていたということです。

遠藤さんの奥様によれば、金属加工の会社を経営する一方、公益団体に関与し始めた頃から飲酒が習慣化。会合が多く、そのたびに関係者から次々に酒を注がれ、拒むこともできないままに、次第に酒量が増えていったとのことでした。事件発覚以降は、眠るために酒を飲むようになり、朝方には吐き気や頭痛が残る状態となっていました。

遠藤さんは結局、3週間入院した後に退院。その際、私は遠藤さんにこう伝えました。

「これまでは、ご自身の代謝能力以上に飲んでいました。そのため、睡眠の質が悪くなって、疲れがとれなくなっていたのでしょう。責任の重いお立場でしょうし、解決しなければいけない案件も多々ある。アルコールで疲れ切った脳では、いい解決策も浮かびません。今日から断酒して、関係者一同に『医者から厳しく酒を止められている』と宣言してください。社外の人との会合で飲まされる場合は、1杯目は焼酎をごく薄くして飲んで、その後は水を『焼酎だ』といって飲み続けてください」

うつ病そっくり!「こころの二日酔い」の脅威

遠藤さんは、アルコール依存とまではいえませんが、アルコールが睡眠の質を損ねることへの認識が甘く、そのため酒で体調を崩していました。深酒は、翌朝の抑うつ、不機嫌、意欲低下に自己嫌悪を伴う独特の心理状態をもたらします。イギリスの作家エイミスはこれを“Metaphysical hangover”(「形而上的二日酔い」)と呼びました。

「形而上的二日酔い」は、一見するとうつ病そっくりですが、治療法は抗うつ薬でなく、断酒です。前任の医師がアルコールの問題を把握しておらず、断酒指導もなしに抗うつ薬を漫然と投与していた点は、同業者として困惑せざるをえませんでした。

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遠藤さんはその後、約束どおりに酒を断ち、生活リズムを整え、適度に運動し…と、生活習慣の改善を行い、日に日に回復していきました。現在、抗うつ薬にまったく頼らずに、安定した状態を維持できています。社内のトラブルも合理的な解決が得られたようで、診察室で話題にすら上らなくなりました。

では、不正経理を気に病んで自殺を図ったとの第一報はいったい、何だったのでしょうか。もちろん、それはそれで深刻だったのでしょう。しかし、命と引き換えにするほどの事態ではなかったようです。実際、酒の入らない冷静な頭脳で落ち着いて考えれば、難なく乗り切れたはずです。

「形而上的二日酔い」の脳では、事態の深刻さを見誤ります。実際には対処可能な問題なのに、「もはや進退窮まった」と誤認させ、自己破壊的な行動に及んでしまうこともあるようです。

エグゼクティブは確かに多忙ですが、コンディションの整った頭脳ならば、膨大な案件の中に優先順位がみえてきます。孤独であることは確かですが、それでも冷静に周りを見渡してみれば、周囲の誰に働きかければ事態が動き出すかもみえてきます。

つまり、本来優秀な頭脳を十全に機能させること。そう考えれば、エグゼクティブにとって本当の脅威は、ハードな仕事自体ではなく、むしろアルコールとそれによる睡眠の質の低下のようです。

引用元:http://toyokeizai.net/articles/-/147360?display=b

まだらー('ー')/~~

 班目幸寛(まだらめゆきひろ) フェイスブック ページへ  友達申請を是非♪  1978年生まれの宮城県出身。  元々は建築科、専門学校卒業後、建築関連の仕事に就いたがが、当人がADHDの気があり(白に近いグレー)、その時の苦労を元にカウンセラーのキャリアをスタート。  カウンセリングのメインは発達障害のカウンセリングだったが、カウンセリングを行うにつれ幅が広がり『分かっているのにできない、やめれない事』等、不倫の恋、経営者の意思決定なども行う。(相談案内へ)  趣味はバイク・自転車・アウトドア・ミリタリーグッズ収集・国内外旅行でリスクティカー。 『昨日よりも若くて、スマート』が日々の目標。  愛読書はV,Eフランクル 放送大学 心理と教養卒業 / 臨床心理プログラム 大学院 選科履修