重度の障がいを持ちながら「起業」の道を選んだ2人の社長
11.28 06:30ダ・ヴィンチニュース
来年の事を云えば鬼が笑うと諺にあるが、2018年の春に卒業を予定している大学生や大学院生の就職内定率が10月の時点で92.7%に達したという。一方で内定辞退率もまた64.6%と高いそうだから、引く手あまたの新卒者には喜ばしい限りだろう。しかし障がい者に目を向けてみると、障害者雇用促進法では民間の事業主に常時雇用する従業員の2.0%以上にあたる障がい者を雇うよう義務付けており、政府は段階的に2.3%に引き上げることを目標としているのに、平成28年度の障がい者雇用状況は実雇用率1.92%に留まっている。
そんな現状にあって、生まれつきSMA(脊髄性筋萎縮症)の佐藤仙務氏と、35歳のときにALS(筋萎縮性側索硬化症)を羅患した恩田聖敬氏は、雇われるのではなく起業することを選んだ。『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(佐藤仙務、恩田聖敬/左右社)は、そんな2人の対談集である。
2人の病態は筋肉が動かせないという点で似通ってはいるが、佐藤氏が先天的なのに対して恩田氏は後天的であり、その境遇の違いが本書の随所に現れていて興味深かった。
ほぼ寝たきりの佐藤氏は一度は就職活動をして内定をもらったものの、実習中に母親に送迎してもらったことについて、後天的に下半身に障がいを持った社員から「なんでお前は人に甘えるんだ? おまえみたいな軟弱障がい者が幸せになれるか!」と叱られ、内定を断ったという。理由は、怯んだとか悲しかったとかではない。この職場で働いたら自分よりも重い障がいを持った人と出会ったときにネガティブなことを言うような、「人としてだめになってしまう」と不安を抱いたからだそうだ。
病気を診断され、身体が動かなくなっていく自分の未来を想像して「堕ちるところまで堕ちた」と語る恩田氏は、乗り越えられた理由として妻の存在を一番に挙げる。なにしろ、元気をなくすと妻から「ALSを言い訳にしないで」と叱られ、嘆いていることもできない。その恩田氏は、現在の制度だと家族が介護する前提でヘルパーを呼べる時間数を決めているため、「深夜は奥さんがいるからヘルパーはいらないですね」などと窓口の担当者に言われることから、「完全他人介護」を目指している。恩田氏の、「では妻はいつ寝ればいいのでしょうか」という疑問は当然だろう。
けれども、行政が障がい者支援に積極的に取り組んでいけば諸々の問題は解決するのかというと、そう簡単な話でもない。例えば、企業が障がい者を雇用するにあたって必要な設備を整えたり通勤に必要な措置を講じたりすると、その費用の一部は助成される。ところが著者たちのように起業した場合、その経済活動中にはヘルパーの介助を受けられない。理由は「ヘルパーさんに仕事をやらせる障がい者」も出てきてしまうからとのことで、実は起業する環境のほうが日本は整っていない。また、佐藤氏のもとに届く障がい者からの就職を希望するメールの多くは、一文目に「自分の障がいの説明」が書かれ、二文目には「雇ってください」で終わっているらしく、就職活動として「あまりにも下手すぎます」と苦言を呈している。
驚いたのは、佐藤氏の会社における障がい者の雇用率がゼロパーセントだということ。週に20時間以上働ける人でないと短時間労働者の扱いになってしまい、障がい者の雇用率に反映されないのだ。数値目標の達成だけを見てはいけないと反省させられた。恩田氏も企業に対して、雇用率を達成することを優先するのではなく、「戦力になるかどうかを真剣に考えて」採用するよう訴えている。同時に、社員に突然の事故が起きたり難病が発症したりした場合に人材を失うことを考えれば、障がい者が働ける環境を整えるのが日本の企業にとって大事なことだと提言している。健常者が障がい者を助けるという常識を、まず疑うべきなのかもしれない。
文=清水銀嶺
引用元
『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(佐藤仙務、恩田聖敬/左右社)
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