「注文をまちがえる料理店」のこれまでとこれから | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

「注文をまちがえる料理店」のこれまでとこれから

06.22 08:00Forbes JAPAN

「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトを立ち上げました。このちょっと不思議な名前のレストラン。6月頭の2日間、都内某所で、たった80人ほどのお客さんを招いただけの、ひっそりとしたプロジェクトになる……はずだったのですが、想像をはるかに上回るとんでもない反響を呼ぶことになりました。

ヤフー!の急上昇ワード(ツイッターのリアルタイム検索)で1位を獲得すると、テレビ各局、週刊誌、新聞からの取材依頼が相次ぎ、さらにはアメリカ、中国、シンガポール、イギリス、スペイン、ポーランドなど海外メディアからもこのプロジェクトを自国で紹介したいとの連絡が殺到しました。

これまでさんざん取材をしてきた自分が、まさか取材をされる側になろうとは思いもよらず、おたおたするばかりの毎日。メディアに身を置きながら情けない話なのですが、こういう体験はなにぶん初めてのことで、なかなかきちんとした対応もできないままの状態が続いています。

そこで今日は、この場を借りて「注文をまちがえる料理店」について、きちんとお話をしてみようと思います。

そもそも「注文をまちがえる料理店」ってなんだよ、というところからお話したいのですが、これは一言でいうと「注文を取るスタッフが、みんな”認知症”のレストラン」です。認知症の人が注文を取りにくるから、ひょっとしたら注文を間違えちゃうかもしれない。だから、あなたが頼んだ料理が来るかどうかはわかりません。でも、そんな間違いを受け入れて、間違えることをむしろ楽しんじゃおうよ、というのがこの料理店のコンセプトです。

なんでまたテレビ局のディレクターである僕が、そんなヘンテコな料理店を作ろうと思ったのか。それは今から5年前に、ある「間違い」を体験したのがきっかけでした。

当時「プロフェッショナル仕事の流儀」という番組のディレクターだった僕は、認知症介護のプロフェッショナル、和田行男さんのグループホームを取材していました。和田さんは「認知症になっても、最期まで自分らしく生きていく姿を支える」ことを信条にした介護を30年にわたって行ってきた、この世界のパイオニア。和田さんのグループホームで生活する認知症の方々は、買い物も料理も掃除も洗濯も、自分ができることはすべてやります。

僕はロケの合間に、おじいさん、おばあさんの作る料理を何度かごちそうになっていたのですが、その日の食事は強烈な違和感とともに始まろうとしていました。というのも、僕が聞いていたその日の献立は、ハンバーグ。でも、食卓に並んでいるのはどう見ても、餃子です。ひき肉しかあってない……けどいいんだっけ?

「あれ、今日はハンバーグでしたよね?」という言葉がのど元までこみ上げたのですが、うっと踏みとどまりました。「これ、間違いですよね?」。その一言によって、和田さんたちとおじいさん、おばあさんたちが築いているこの”当たり前”の暮らしが台無しになっちゃう気がしたんです。

ハンバーグが餃子になったって、別にいいんですよ。誰も困らない。おいしけりゃなんだっていいんです。それなのに「こうじゃなきゃいけない」という”鋳型”に認知症の方々をはめ込もうとすればするほど、どんどん介護の現場は窮屈になっていって、それこそ従来型の介護といわれる「拘束」と「閉じ込め」につながっていくのかもしれない。

そういう介護の世界を変えようと日々闘っているプロフェッショナルを取材しているはずの僕が、ハンバーグと餃子を間違えたくらいのことになぜこだわっているんだ、とものすごく恥ずかしくなった瞬間、「注文をまちがえる料理店」というワードがぱっと浮かんだんです。

おっ、これはいいかもしれない。頭の中に映像がぱーっと駆けめぐりました。僕はお客さんで、ハンバーグを注文する。でも、実際に出てきたのは餃子。最初から「注文を間違える」と言われているから、間違われても嫌じゃない。いや、むしろ嬉しくなっちゃうかもしれない。これはかなり面白いぞ。

そしてなにより、「間違えちゃったけど、ま、いっか」。認知症の人も、そうでない人もみんながそう言いあえるだけで、少しだけホッとした空気が流れ始める気がする……

いざ、プレオープンへ向けて

僕はこれまで数多くの社会課題を取材してきましたが、その中で一つ思っていたことがあります。それは「社会課題は、社会受容の問題であることも多い」ということです。

もちろん社会課題解決のためには法律や制度を変えることが重要なのは当たり前です。でも、僕たちがほんのちょっと寛容であるだけで解決する問題もたくさんあるんじゃないかなぁとも思っていました。例えば、電車に乗せるベビーカーにキレたり、同性婚の是非みたいな議論などは、社会の受容度、寛容度が高ければ解決することも多いように思います。

「注文をまちがえる料理店」も同じ発想です。当たり前ですが、この料理店で認知症の様々な問題が解決するわけじゃありません。でも、間違えることを受け入れて、間違えることを一緒に楽しむ。そんな新しい価値観をこの料理店から発信できたら。そう思ったらなんだか無性にワクワクしたんですよね。

ワクワクをあたため続けて5年。去年11月から、本格的に仲間集めを始めました。「注文をまちがえる料理店ってのをやりたいんですけど・・・」と話して回ったら、わずか2か月あまりで、デザインやPR、デジタル発信やクラウドファンディング、民放の記者や雑誌の編集者、そして外食サービスや認知症介護の和田さん…各分野の最高のプロフェッショナルたちが集まり、実行委員会が発足しました。

発足してすぐに出来たのが、注文をまちがえる料理店のロゴマークでした。海外の賞を多数獲っている天才デザイナーが考えてくれました。ちょ、ちょっと待って、なんなのこのかわいさ。”てへぺろ”に、注文をまちがえるの”る”が横になっているこの感じ。37歳のおっさん(僕)が気持ち悪いですが、胸のキュンキュンがとまりませんでした。

他にもすごいアイデアがどんどん出てくるんですよ。そこはもう、みんなプロなんで。僕は目の前で起きていることがまるで夢のようで、「こんなドラクエがあったら、速効でゲームクリアできるのに」と思っていました。

その後、何度かのミーティングを経て、いよいよ6月3日、4日の2日間でプレオープンすることが決まりました。”プレ”としたのは、本当に「注文をまちがえる料理店」というコンセプトが受け入れられるのかを実験してみたかったからです。

その際、僕たちが大事にしようと決めたことが2つあります。

1) 料理店として、来てくれた方が十分満足できるような味にこだわる
2) 間違えることは目的ではない。だから、わざと間違えるような仕掛けはやらない

1はとても大事な視点でした。僕たちの中に福祉的な”いいこと”をやっているという意識が出てくると、そこに甘えが生じる可能性があります。でも、「いいことやっているんで、多少いけてなくても許してね」は絶対にダメ。仮に自分たちがお客さんで来て、ハンバーグを頼んだのに餃子が出てきて、その餃子がおいしくなかったら、なんだか許せない気がしたからです。

「どのお料理が出てきてもおいしい」。それが担保されてはじめて、間違えられても笑って許せる雰囲気が生まれるのではないかと思いました。

この点は、実行委員会のメンバーの木村周一郎さん(ブーランジェリーエリックカイザージャポン代表取締役)が中心になって、完璧にオペレーションしてくださいました。木村さんも参加している、外食サービス企業の若手経営者が集まる勉強会「77会」に声をかけさせてもらい、吉野家ホールディングスの河村泰貴社長と高級中華料理店新橋亭の呉祥慶社長が参加してくれることに。そして、なんと3社によるオリジナルメニューを提供いただけることになったのです。

木村さんが展開する超人気フランスパンのお店、メゾンカイザーのこだわり生地を使った「スペシャルきまぐれピザ」。吉野家HDの「ハンバーググリル 牛バラシチュー」、そして新橋亭の「ぷっくり手包みエビ入り水餃子」。僕たちも試食をさせてもらいましたが、どれも最高に美味しい料理ばかりです。さらに、値段やアレルギーの問題には最大限配慮するべきという木村さんの意見を反映させて、値段は1000円均一、アレルギーについてはお客さんに申告してもらうオペレーションを組むことにしました。

間違いがコミュニケーションになり・・・

2の「間違えることを目的としない。わざと間違える仕掛けはしない」という点については本当に悩みました。お客さんの期待が「注文を間違う」ことに集中してしまったらどうしよう。いや、むしろそれを期待してこのレストランにいらっしゃる方も少なくないかも、と思ったのです。でも、わざと認知症の方が間違えるように設計するのは本末転倒な気がしました。

実行委員会の打ち合わせには、若年性認知症の当事者の三川泰子さんとその夫の一夫さんにも出席してもらっていたのですが、あるとき一夫さんが「妻にとって、間違えるということはとてもつらいことなんですよね…」とおっしゃったんですね。その言葉は僕の胸に深く深く突き刺さりました。やっぱり、わざと間違えるような設計は絶対にやめよう。間違えないように最善の対応を取りながらも、それでも間違えちゃったら許してね(てへぺろ)という設計にしようと決めました。

さて、これで準備は整いました。来てくれたお客さんも、認知症の当事者の方も、僕たちも、みんなが「やってよかったね」と笑って帰れることを目標に、注文をまちがえる料理店はプレオープンの日を迎えたのです。

場所は、都内某所。「77会」の協力を得て、座席数12席の小ぶりでおしゃれなストランをお借りすることができました。朝、僕はレストランに向かう電車の中で、不安でいっぱいでした。正直言うと、前の晩はまったく眠れませんでした。もっと言うと、吐きそうなくらい緊張していました。

やはり、怖かったのです。「認知症の人を笑いものにするつもりなのか?」「間違えると思って期待していたのに、つまらなかった」…と戸惑うお客さんの様子、右往左往してつらそうに注文を取るおばあちゃん。そんなネガティブな映像がぐるぐると頭を巡るのです。レストランが近づくに連れて、不安が大きくなっていきます。

どうしよう、本当に行きたくないな、とまで思ったとき、僕は5年前に見た風景を思い出していました。ハンバーグと餃子を間違えながらも、ほのぼのお料理を作り、美味しそうに食べていたおじいちゃん、おばあちゃんの姿です。大丈夫、大丈夫。うまくいかせようと思わなくて、大丈夫。変な感覚ですが、そう思うと、ふっと気が楽になりました。

今回のプレオープンの2日間でお越しになるお客さんは80人。多くが実行委員会のメンバーの友人・知人で、事前予約制としました。注文を取るおじいちゃん、おばあちゃんは事前に「やりたい!」という意思を示してくれた人の中から、和田さんたち専門家に選んでもらった6人です。福祉の専門家のサポートも受けながら、ローテーションでホールスタッフをつとめます。てへぺろマークの入ったエプロンを着けて、おばあちゃんたちもやる気十分。うん、かわいいぞ、おばあちゃん!

さあ、いざ店が開いてみると、目の前にはすごい光景が広がりました。おばあちゃん、絶好調。水は2個出すのは普通、サラダにはスプーン、ホットコーヒーにはストローがついています。

そして、注文を間違わないようにと僕たちが結構苦労して作ったオーダー表なんですが・・・それをお客さんに渡して書かせてるじゃないですか。すごいぞ、それなら間違わないね!と思ったら、ハンバーグを頼んだお客さんに餃子を出してるよ…さらに、レストランの入り口に立てかけられた「注文をまちがえる料理店」の看板を見て、「注文を間違えるなんてひどいレストランだね」と笑い飛ばすおばあちゃん。いや、あんたや!あんたが間違えとるんや!

カオスです。はっきり言って、むちゃくちゃなんです。それなのに、お客さんがみんな楽しそうなんですね。注文を取るのかなと思ったら、昔話に花を咲かせてしまうおばあちゃんとそのまま和やかに談笑したり、間違った料理が出てきても、お客さん同士で融通しあったり、誰一人として苛立ったり、怒ったりする人がいないのです。あちこちで、たくさんのコミュニケーションが生まれ、なんとなく間違っていたはずのことがふんわり解決していく。これは面白いなぁと思いました。

認知症当事者であるおじいちゃん、おばあちゃんに話を聞いてみると、印象的な言葉がいくつも聞けました。元美容師のコウメさん(仮名)に「疲れませんか?」と聞くと、「私はずっと立ち仕事だったからね、これくらいで疲れてたらお話にならないでしょ」と即答されました。そして続けて、「ここは明日もやるの? 断られても、私は明日も来るけどね!」と言われました。

そして、以前社員食堂で働いていた60代の若年性認知症の三澤さんは、僕に昔話をしてくれました。「社員食堂で働いていたときはさ、間違えたら当然怒られるよね。怒られるくらいだったらよくて、お客さんは帰っちゃう、下手したら私はクビだよね」。そして言うのです。「ここのお客さんは優しいよね。間違っても誰も怒らないもの。こういうところがあったらずっと働きたいよね。働くのはやっぱりいいよね」

やったからこそ見えてきた課題

料理店で一番評判が良かったことがあります。それは、ピアノの演奏でした。プレオープンの3日前、注文をまちがえる料理店実行委員会の定例会議に出席してくれた三川夫妻から「ピアノの演奏をしたい」との連絡が入りました。

妻の三川泰子さんは、ピアノの先生をしている専門家でした。しかし、4年ほど前に認知症を発症し、楽譜が読めなくなり、徐々に鍵盤の位置も分からなくなってきました。それでもピアノを弾きたいと、夫の一夫さんと一緒に練習を続けてきた曲があるので、それを料理店で演奏したいというのです。曲は「アヴェマリア(グノー/バッハ)」。泰子さんがピアノ、夫の一夫さんは独学で学んだチェロで、一緒に演奏してもらうことにしました。

お客さんの食事が終わった頃を見計らって二人を紹介し、演奏が始まります。何度も間違える泰子さん。音を外し、リズムが乱れます。そのたびに一夫さんが、そっと手を添え、正しい鍵盤の位置に泰子さんの指を置きます。止まり、戻り、つっかえながら、泰子さんが最後まで弾き終えたとき、料理店には優しい拍手がわき起こりました。

演奏を終えた泰子さんを迎えると、「本当にありがとう。私は自分がどうなってしまったのか分かっています。ぜんぜん上手に弾けなかったけど、またこうしてピアノを弾けて、本当に嬉しいの」と言うのです。泰子さんは、演奏をするたびに、毎回同じことを、僕に伝えてくれました。僕はただただ「すばらしい演奏でしたね」と言うばかりで、それ以外の言葉が見つかりませんでした。

2日間のプレオープンが無事に終わりましたが、その成果は僕たちの想像を上回るものでした。お客さんにお願いしたアンケート結果を見ると、60%以上のお客さんのテーブルで間違いがあったことが分かりました。しかし、そのことで腹を立てたり、不快に思ったという人はおらず、90%が「またぜひ来店したい」と答えてくれたのです。

もちろん多くの課題も明らかになりました。45~60分で一回転を目指していましたが、実際は60~90分で一回転となり、お客さんを30分以上待たせてしまう。もっと認知症のことを知るためのハンドブックなどが欲しいという声も聞かれました。さらに、2日目になるとサポートする僕たちの方が慣れてきて、どうしても効率的なオペレーションに走ってしまう傾向がありました。効率化すればするほど、この料理店は、普通の料理店になっていきます。そのバランスが難しいなと感じました。

言い出したらきりがないほど、課題は山積みです。でも、やってみたからこそ分かったこともたくさんあります。

僕につきまとっていた「認知症の人を笑いものにするのか、見世物にするのか」という不安。それは、ある意味においては、笑いものにしているのかもしれませんし、見世物にしているのかもしれません。おそらくこの先もその不安や恐怖は常につきまとうと思います。でも、その恐怖や不安を越えなければ、ことは何も動かないということもよく分かりました。

次は、9月21日の世界アルツハイマーデーの前後で、「注文をまちがえる料理店」の本オープンを実現させたいと思っています。でも、本当にできるのかどうかは分かりません。準備はこれからなので。もしかしたら間に合わなくて、全然違う時期にやっているかもしれません。でも、そこは目をつぶってくださいね。注文をまちがえる料理店は、寛容の心で付き合って頂くのが一番いいですから。

引用元

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班目幸寛(まだらー)
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まだらー('ー')/~~

 班目幸寛(まだらめゆきひろ) フェイスブック ページへ  友達申請を是非♪  1978年生まれの宮城県出身。  元々は建築科、専門学校卒業後、建築関連の仕事に就いたがが、当人がADHDの気があり(白に近いグレー)、その時の苦労を元にカウンセラーのキャリアをスタート。  カウンセリングのメインは発達障害のカウンセリングだったが、カウンセリングを行うにつれ幅が広がり『分かっているのにできない、やめれない事』等、不倫の恋、経営者の意思決定なども行う。(相談案内へ)  趣味はバイク・自転車・アウトドア・ミリタリーグッズ収集・国内外旅行でリスクティカー。 『昨日よりも若くて、スマート』が日々の目標。  愛読書はV,Eフランクル 放送大学 心理と教養卒業 / 臨床心理プログラム 大学院 選科履修

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