メンタル不調を疑う人の食事の例として、朝食は欠食だったり、パンと飲み物だけ、もしくはゼリー飲料のような簡単なものであることが多いようです
4月も3週目に入りました。新入社員も研修期間を終えて、いよいよ本格的に業務に携わり始める時期ですね。彼らを見て午前中は眠そうにしていたり、身だしなみに乱れがあったりすると、まだ学生気分が抜けないのかな、と思うこともあるでしょう。そんなとき、新入社員だからという理由で片付けてしまうと、隠れメンタル不調を見逃してしまうかもしれません。
また、新入社員ではなくても、メールのレスポンスが遅い、頼んだことがなかなか進まない、というようなことが続くと、周囲の人は「やる気がないのか」「仕事ができないのか」などと思ってしまいがちです。新入社員や、転職したばかり、部署を異動したばかりの職場での関係がまだ浅い社員であれば、以前のコンディションを知らないので判断しにくいものですが、こうしたことはメンタル不調によっても引き起こされることを意識するのも大切です。もしかして、という視点があるだけでも見方が優しくなり、追い詰めて重症化させることの予防にもなります。
特に、環境の変化は良くも悪くもストレスになりますから、複数の視点やコミュニケーション手段を持っておくとメンタル不調が重症化する前にサポートすることができます。
また、見た目には変化がわからず、今までと同じクオリティの仕事をしているようでも、労働時間が極端に長くなっている人は要チェックです。メンタルに不調があると、睡眠の質が下がり、集中力が低下して、結果的に労働時間が長引いてしまうこともあるからです。
仕事を休みがちな人はメンタル不調を思わせますが、むしろ、休日出勤や残業もよくしている人の方が、ある日突然ポキっと折れてしまうこともあるので本当に注意が必要です。
私は心療内科併設の研究所でメンタル不調を訴える方々の食事カウンセリングをしていたので、企業研修の際にメンタルヘルス対策の相談を受けることもあります。
そうした時に総務・人事の担当者の希望として、まず「予防をしたい」に次いで、社員に自発的にケアしてほしいので「気付きを提供してほしい」ということがよく挙げられます。
実際に研修の際には可能な限り社員の人の食事記録をいただくので「こういう食べ方・生活をしていると危険だな、と思う社員がいたら教えてください」と言われることがあります。もちろん、総務・人事としては「予防したいから」という意図だと思うのですが、その人のキャリアにもしも影響があったらと思うと、面談もしていないのに紙切れ一枚で「この人が心配です」とはとても言えません。あくまでも、食事記録によるアドバイスは本人に気づきを与えるきっかけであり、セルフケアをするための手段のひとつを知っていただく目的だとお考えいただければと思っています。
不眠や強い疲労感等
メンタル不調の症状を疑う人の食生活
面談の際に不眠や強い疲労感のようなメンタル不調の症状を疑う人は次のような食生活を送りがちです。
朝 食パン、コーヒー
昼 お弁当(コンビニのもの)
夜 春雨スープ
特徴としては、朝食は欠食またはパンと飲み物だけ。もしくはゼリー飲料のような、調理の手間がなく、食べることに時間もエネルギーを使わない簡単なものを食べています。昼食は内容に開きがありますが、基本的にはデスクで食べられるものが中心です。そして、夜は年代によっても異なりますが20代は食事の時間が遅く、会社を出た後に牛丼やカレーライスなど安く済むけれどお腹にたまるものを食べるケースが多いです。30代半ばを過ぎた体重増加や体型が気になる年代では、前述のような春雨スープやノンフライのカップ麺を残業中にデスクで食べるようになったりします。
こうした食生活を続けているとどのようなことが起きるでしょうか。
ビタミンB群、カルシウム、マグネシウムには精神を安定させる作用がありますが、このような炭水化物主体の食事では、これらの栄養素を充分に補うことができません。
また、体内に貯蔵できないビタミンCは食事の度に補充したいところですが、野菜や果物に多く含まれる上に熱に弱いため、加工品ばかりだと三度の食事をしていてもビタミンCの摂取はほぼ期待できません。ビタミンCというと「美肌のための栄養素」という印象が強くてビジネスとは無縁な感じがしますが、実は抗ストレス作用もあり、ストレス時にはより意識したい栄養素なのです。
また、野菜不足だという認識はしていても、タンパク質不足は見過ごされがちです。牛丼やカレー、お弁当などでタンパク質はきちんと摂っているように思ってしまいますが、よく見ると脂身の方が多い肉であったり、メンチカツやハンバーグなどひき肉を使ったものが多くあります。ひき肉で美味しくジューシーな仕上がりにした食事は、赤身の量が少なく脂身中心ということもありますので、思っているよりもタンパク質が摂れないこともあります。
人間はストレスを感じれば感じるほどに、副腎皮質から分泌(消費?)されるホルモンが増えます。そのホルモンの材料となるのはタンパク質なので、ストレス下においては、野菜不足だけでなく、タンパク質不足も痛手となります。
以上が食事から振り返るセルフケアの一例です。知っておくと、健康を顧みる会話の糸口にもなるのではないでしょうか。
では、研修や職場で接する中でメンタル不調の兆候を抱えていそうな社員を見つけたとき、周りの人はどのような関わり方をすればよいのでしょうか?
ノミュニケーションは時に悪影響
「部下とのランチ」に効果あり
まずは話を聞こうということで、食に関することは会社の風土や年代によっては「人間関係のストレスだろうから、吐き出させてあげよう」と酒の席でのノミュニケーションをひとつの手段にすることもあります。一見すると気遣いある行動に感じられますが、実際は仕事が終わったあとに飲みに行くといつもよりも睡眠時間も削られる上に、睡眠の質自体の悪くなり、疲労感は増してしまいます。
疲れているときには、体を休ませることが一番です。うつが心の風邪と例えられることもありましたが、風邪をひいて高熱を出している人を元気がないからと夜遅くまで連れ回すようなことはしないのと同じです。ノミュニケーションの時間を捻出させるよりは、勤務時間内で話せるといいですよね。
その際、どんなに聞き上手であっても、話す人からすると、「正直に話すとキャリアに影響が出るのではないか」という不安も拭いきれません。その不安を感じずにいられるような体制づくりも大切だと思います。
現状でメンタルヘルスに問題を抱えて休職中の社員がひとりもいない、もしくは過去にもない、という会社はそう多くはないと思いますので、そうした社員にどう関わって、ケアして、どう復職をサポートしているのか、という実績と信頼の積み重ねを見せていくことも大事なのではないでしょうか。
部下を管理する立場の人は、部下がずっとデスクに貼りついていないように、ランチぐらいは外に出るように誘うことも悪くないでしょう。経営者の中には、ランチタイムを部下との面談に充ててひとりずつ連れていく、という人も珍しくありませんよね。そこまでするのは大変ですが、時には一緒にランチに行くって、食べながら食生活について聞くと良いでしょう。仕事中の面談で突然、「ちゃんと食べている?」という風に聞くと、メンタル不調を疑われているのではないかと感じ「大丈夫です」の一言で終わらせてしまう人も少なくありません。ランチ中ならば、仕事中に突然食生活について聞かれるよりは違和感がありませんし、そこから疲労感や睡眠時間について会話を広げることも比較的しやすいはずです。
日頃から声掛けの多い職場では、生活面をヒアリングしても大げさに捉えられませんし、話しやすい土壌も作られています。メンタル不調の予防というと構えてしまいますが、職場の人間関係をよりよくすることも大切です。
(栄養士・食事カウンセラー 笠井奈津子)