小林麻央さんが乳がんで亡くなってから、夫の市川海老蔵さんや2人の子どもたち、姉の小林麻耶さんら遺された家族を心配する声も絶えない。
日本でがんは2人に1人が直面する病気で、死因のうちいちばん多い〔厚生労働省「平成27年(2015)人口動態統計」〕。それだけ遺族も多く、死別の苦しみに心のバランスを崩す人も少なくない。
苦しむがん遺族には心のケアが必要だと、10年前に「遺族外来」を始めたのが、埼玉医大国際医療センターの精神腫瘍科教授、大西秀樹医師だ。いったい、どのような診療が行われているのだろうか。大西医師に聞いた。
家族との死別は人生最大のストレスだ
――遺族外来というのは、ストレートな名前です。どのようなきっかけで始めたのですか。
苦しむ遺族に来てほしいから、わかりやすい名前にしました。精神科というとピンとこないし、ハードルが高いので。
精神科医として勤めて10年ぐらい経ったとき、がんの患者さんや家族の診察が多くなったんです。亡くなった後、よりよく喪に服せればいいのですが、周りの対応に傷つけられる例は少なくありません。
ある女性は、家族と死別語、相続をめぐって家を追い出されてしまいました。診察を通じてサポートし、生きていく力がついて元気に暮らしているのが救いです。
別の女性は夫をがんで亡くし、自身も乳がんになりました。その後に仕事を辞めたら、うつ病になった。死別は人生最大のストレス。さらに病気や退職のストレスが重なり、治療が必要になったんです。こうした出会いが続いたので、埼玉医大に赴任した後、がん患者さんの心のケアをする「精神腫瘍科」の中で、2007年から遺族外来を始めました。
――外来の様子を教えてください。
遺族外来には、年に平均して20~30人が受診します。そのうち、この病院(埼玉医大)に通っていた患者さんは1割ほどで、9割は院外からです。遠くは広島、三重などからも来ます。配偶者を亡くした人が6割と多く、4割が親や子どもを亡くした人です。なお、診察には医療保険が適用されます。
診察の流れは、こうです。初めに臨床心理士が話を聞いて、精神科の診断基準に沿って質問します。表情や服装などを観察しながら20~30分、話を聞き、次の予約を入れます。おカネや生活の悩みも多く、弁護士や専門家につなぐ場合もあります。
「つらいから話を聞いてほしい」という遺族が多いですね。周りの人に話せないことを話しにくる。「子どもを亡くしてつらいけれど、時間が経って言いにくい」「いつも同じ話と思われる」「守秘義務のある医療者がいい」と言われます。
訴えの7割は、「治療はあれでよかったか」とか、「こう接すればよかった」とか、がんの治療に関する後悔です。私たちは、がんの患者さんに接している専門家ですから、治療の内容も理解しています。最期に苦痛が取れないとき、モルヒネや鎮静の薬を使うのですが、そのせいで死期が早まったと後悔している遺族に、「医学的にベストな選択でしたよ」と説明すると、楽になるそうです。
新聞で遺族外来が紹介されると、記事を握りしめてやってきた女性がいました。母を亡くして何をする気も起きず、電車に飛び込もうとして止められた。遺族外来という文字を見て、「これだ」と思ったそうです。話をよく聞くと、うつ病を発症していました。抗うつ剤がよく効いて元気になりました。
がんの患者さん向けの外来も併設していて、年に200人以上が受診します。患者の家族の外来もあります。病棟に出向いていくことも多くあります。
遺族の「悲しみ」を当然視するのは危険だ
――なぜ、遺族外来のような場が必要なのでしょうか。
大切な人を亡くした後、一時的に悲しみの反応が起きます。中には話すだけでよくなっていく遺族もいますが、大事なのは、うつ病の見極めです。うつ病は一般的に人口の3~7%がかかりますが、死別して1年で15%の遺族がかかるという調査があります。うつ病が認められ、どうにもならない苦しみから死にたいと思う人もいるので、治療が必要です。ただ、周りは「死別を経験したんだから当たり前」と症状を見過ごしてしまう。
また、死別のストレスから生活の質が下がり、自身の病気に気づかなかったり、心臓病で亡くなる率が高くなったりという問題もあります。回数や期間はそれぞれですが、継続して受診してもらい、「愛する人がいない新しい世界」に適応していくサポートをします。
――「新しい世界」への適応ととらえるのですね。
10年間、遺族外来を担当して感じるのは、「つらい別れがあっても、人間には適応して成長していく力がある」ということ。私も、たくさんの遺族や患者さんとの出会いで、成長させてもらっています。本当に大変な状況の遺族が来たとき、「今はつらいけどこのままじゃないから」と、明確に言えるようになったのはここ数年です。
17歳の息子を亡くしたあるお母さんは、「この壁を乗り越えられない」と言っていました。同じ立場の人としか話したくないと、ボランティアで病気の子の家族を支える活動を始めました。それでも傷が癒えなかったので、つらくなって外来を受診。うつ病を発症していました。ボランティアを辞めて治療しましたが、父を亡くしてまた体調を崩した。
それでも、彼女はよくなりました。そして、息子さんが好きだった服で作ったぬいぐるみを見せてくれました。思い出の布でぬいぐるみを作る会を始めたそうです。つらいながらも新しい生活を始めている一例です。
よかれと思った支援で、かえって傷つけることも
――身近な人は、遺族とどのように接すればいいのでしょうか。
遺族の訴えのうち、後悔に次いで多いのが、「周りの人の言動に傷つく」というもの。よかれと思っても、役に立たない支援というのも少なくありません。
たとえば、死別によるうつ病の状態がよくなってきたのに、近所の人に根掘り葉掘り聞かれ、ぶり返す患者さんもいます。「がん家系なの?」「検診に行かなかったの?」「あなたよりつらい人がいる」「私はわかる」などは、言ってはいけない言葉です。元気を出すよう鼓舞する、死別に触れずに陽気に振る舞うのも、遺族を傷つけるといわれています。もっとも、悪気があるわけではなく、知識の欠如だと思います。身近な人には、そばにいて話を聞いてほしいのです。
どのような援助がよかったのかを聞くと、「近所の人が煮物を作って持ってきてくれた」「『かける言葉がないのよ』と言ってくれた」というものがあります。私も、診察で遺族に「私の気持ちがわかりますか?」と聞かれた場合は、「わからない。だから話を聞いて少しでも理解に努めるのです」と返しています。「あなたから聞いたことしかわからない」と正直になるのも大事です。
遺族サポートの形は層をなしています。まず身近な人が耳を傾ける。さらに、「つらいならこういうところもあるよ」と遺族会や医療機関の情報を伝える。遺族会に行って、吐き出すのも効果的です。症状があれば、近くの医療機関に行く。さらに必要なら、遺族外来や、がん拠点病院にいる精神腫瘍科医(心の専門家)にかかるというステップがあります。
――先生も、同僚を亡くされたと伺いました。
今年、子育て中の同僚ががんで亡くなりました。彼女は生前、お子さんにも周囲にも、自分の命が限られていることを優しく伝えていました。だから、子どもたちも母親の死を十分に理解していたようです。立派な先生でした。
がんになった段階から、家族ケアが必要なんです。残される子どもにも、年齢に応じた言葉で「治らない病気になっている」と話しておいたほうがいいですね。大人がひそひそ話すと、自分が悪いことをしたと思ってしまう。話の輪に入れるようにするのが大事です。
国は、がん患者や家族の心のケアを進めるように言っていますが、実際は追いついていない。身近な人ができることや、社会的な資源として何が活用できるのかを、前もって知っていれば、実際に死別に直面したときの対応は違ってきます。これを伝えていきたいですね。
引用元
――遺族外来というのは、ストレートな名前です。どのようなきっかけで始めたのですか。苦しむ遺族に来てほしいから、わかりやすい名前にしました。精神科というとピンとこないし、ハードルが高いので。精神科医と…
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