コンビニで限定スイーツを買いたいのだけれど、「レジに持っていくのが恥ずかしい」と思ってしまう男性。

憧れのヘアスタイルがあるのに、美容師さんとの会話が苦痛だから「適当に揃えるだけでいいです」と伝えてしまう女性。

相手と向き合うことが苦手なために商談がうまくいかないとか、明らかに体調を崩しているけれど医者との会話が怖くて病院を訪れることができない、という人もいるでしょう。

精神科医である『大人の人見知り』(清水栄司著、ワニブックスPLUS新書)の著者によれば、こうした悩みは「社交不安症」という心の病気につながる「大人の人見知り」が原因。

「自分が周囲から、どんな人に見られているか」

「自分が相手から、どう思われているか」

「自分が他人から、どんな評価を受けているか」

こんなことを心の中でぐるぐると考えてしまうため、自分の気持ちを表現できなかったり、要望を伝えられなかったり、緊張してコミュニケーションをスムーズにとれなかったり…。

人間関係(社交といいます)の極度の不安のために、ついには、生きていく上で必要なことすらできなくなってしまうのです。生活の障害が強ければ社交不安症という病気と診断されます。(「はじめに」より)

もちろん人間関係の不安は、多かれ少なかれ誰にでもあるものです。そして本書では、病気の手前の「予備軍」の状態を「大人の人見知り」と表現しているのだといいます。

注目すべきは、「人見知り」が性格の問題だけにとどまらず、放置するとストレスが増大して症状も深刻化し、重篤な社交不安症を引き起こす危険性があるということ。

とはいっても、認知行動療法に基づいた技術や考え方をしっかり身につけて訓練すれば、人見知りも社交不安症も撃退できるのだそうです。そのために書かれた本書の第3章「“脱”人見知りへの10の技術」から、「不安を捉え、コントロールする技術」をピックアップしてみましょう。

「不安メーター」を意識する

不安をコントロールするためにまず大切なのは、自分が不安を感じているという事実を把握すること。そして感じた不安を数値化することによって、大まかに不安の強弱を把握できるのだそうです。そこで著者は、どれくらい不安なのか、0点から100点までの間で点数をつけてみることを勧めています。

100点がもっとも強い不安で、0点はなんともない状態。「あ、いま不安が来たな」と思ったら、10点から徐々に高まって20点、30点、50点…70点、80点…というように、自分の不安を点数にするのが最初の訓練だというのです。

点数をつけるのに特に基準はなく、自分の尺度でOK。過去の経験と照らし合わせて、「いまは、だいたい100点満点の中間あたりだから50点ぐらいかな」と考えればいいということ。つまり、自分の状態を認識することが大切だというわけです。

たとえば不安の点数が80点まで来たら、危険水域に入っているから気をつけるように、自分で決めればいいという考え方。ネガティブな認知の歪みにはまりやすい状況なので、結論を飛躍させたり感情的決めつけをしたりすることのないように注意することが大切だといいます。

逆に不安の点数が減っている状況では、ポジティブな見方ができるようにすることが重要。不安の点数が低い場所では、できるだけ人を探して声をかけてみたり、喋ったりすると、認知の歪みが修正されるそうです。また、不安が高まってきたとしても、ちょっと深呼吸をするなど、ブレイクタイムをつくることで不安の点数が下がることもあるでしょう。(75ページより)

15分のくよくよタイムを“満喫”する

重要な会議が近々あり、大勢の人の前でプレゼンをしなければならなくなったとします。失敗は絶対に許されないと思い込んでいて、そのことばかりが気になり、不安のメーターがなかなか下がらない。そんな場合は、意識して一気に不安に浸る15分程度の「くよくよタイム」をつくるといいそうです。

思い浮かべる内容は、「心配事のリハーサル」に絞ること。その仕事のプレゼンがうまくいくかどうかを頭のなかでリハーサルするときに、最悪と最良のふたつのパターンを考えてみるべきだというのです。

当然ながら、「まったく声が出ないでなにもしゃべれない」という最悪のシナリオのイメージが思い浮かぶかもしれませんが、逆に「バッチリ決まって絶賛される」という最良のシナリオもあるはず。5分で最悪のシナリオを、もう5分で最良のシナリオをつくってみることを著者は勧めています。しかし現実的には、そのまんなかくらいになることが多いのだそうです。

残る5分で最悪のシナリオと最良のシナリオの両方を思い浮かべておくと、もうそれ以上は考えても無駄。頭のなかでのリハーサルは長時間繰り返し、たくさんしたほうがいいという考え方もあるでしょうが、心配事は往往にしていくら考えてもキリがないもの。そのため、かえって不安が高まるケースのほうが多いというのです。

よって1日15分、最悪と最良の心配事のリハーサルをしたら、あとはもうそのことを考えずに本番に挑むべきだと著者はいいます。

加えて、15分のくよくよタイムを行う上でもうひとつ大事なのが、「思い浮かべた内容を紙に書く」こと。頭のなかでこねくり回しても、考えはなかなかうまくまとまらないもの。そればかりか、堂々巡りになってしまいがちです。しかし頭に浮かんだ内容を箇条書きにすると、スッキリ整理でき、無意味な堂々巡りも防げるというわけです。この場合も、最悪の場合と最良の場合を書き出すことがポイント。

なお、タイミングもまた重要で、間違ってもやってはいけないのは就寝前。なぜなら、眠る前に布団のなかであれこれ思い浮かべてしまうと、興奮して眠れなくなるから。そのため不眠症になってしまう人もいるというのですから、避けたいところです。(77ページより)

注意をシフトする技術

人見知りの人は、「自分がどう見られているか」という不安に直結する考えを常に抱いているもの。そして、そこに注意が向いてしまうというのです。つまり自分に注意が向いた結果、不安が高まるということ。そして不安が高まると身体が反応するのが生理現象なので、ますます顔が赤くなったり、声が震えたりという悪循環に陥るわけです。

そういうときにいいのは、注意を別なところに向ける練習をすること。たとえば著者が患者さんに行ってもらう練習に、「診察室のカレンダーを見てもらう」というものがあるそうです。カレンダーにどんな絵が描いてあるか、ラジオのアナウンサーのように、見ていない人にもわかるように説明してもらうというのです。

たとえば「クマが子どもたちとお花見をしています」「おにぎりを持っているキツネとブタもいます」「モグラも顔を出しています」といったような実況中継をしている間は、自然と注意がカレンダーの絵に向かざるを得ないというわけです。

そしてカレンダーの絵のような「モノに対する実況中継」ができたら、次は「他人に注意を向けた実況中継」をする練習。ふたりで向かい合っているとき、患者さんに「きょうの私の格好はどうでしょうか?」と質問をするのだそうです。

そうして、「黒いフリースを着ていて、その下にピンク色のボタンダウンのシャツを着ていて、眼鏡をかけていて、髪の毛は黒くて短い…」というように、身についた特徴を口に出して実況中継してもらうわけです。

そうして「患者さんにとっての他人」を観察したところで、次は自分に注意を向け、「自分はどう見られているか」を考えてもらうのだとか。その後、また著者のほうに注目してもらい、もう一度、著者がどんな格好をしているかを実況中継。診察が終わって家に帰ってから、著者がどんな格好だったか説明できるように注意深く観察してもらうのだといいます。

これは「注意のシフト」といい、患者さんに自分と他人との間で注意を自由自在にシフト(移動)できるようにしてもらうことが目的だそう。注意のシフトをする際に意識すべきは、警察官や探偵になったつもりで相手の外見の特徴を念入りに覚えるようにすること。

人間が不安になるのは、自分がどのように思われているかということに注意が向くから。しかし「相手の顔をよく覚えることのほうが大事だ」というように意識が変われば、自分に対して注意を向けることが減ることに。そうすれば、自然と不安が低下するというのです。

ちなみに注意のシフトのいちばんいい練習は、電車に乗って、その車両に乗っている人々の顔をできるだけ覚えることだと著者はいいます。電車のなかで知らない人の顔を見ると、目が合ってしまいそうで不安になるかもしれませんが、現実的にはスマートフォンを見ている人が多いはず。スマートフォンに見入っている人は周囲を気にしていないため、こちらが少しくらい見たとしても目が合うことはないそうです。

それでも「実物の人間を相手にして練習する作業はどうしても緊張する」というのであれば、まずはテレビで練習するという手も。テレビに出ている人の顔を覚えるつもりで練習をし、コツをつかんだら電車でやってみればいいわけです。(80ページより)

決して難しい内容ではなく、すぐに試せるアイデア満載。できることから挑戦してみれば、無理なく人見知りを克服できそうです。