いつも飄々として楽しそう。でも正直、何を考えているのかよく分からない。すべてをさらけださない。いつの間にかお笑いという枠からも外れて、独自の道を歩く。そんなタモリがうらやましい。
好きなことだけやる
作家の吉行淳之介氏は、かつてタモリを評してこう言っている。
「ああいうタイプの人というのは、過去だれかいましたか。いたでしょうかね。ああいうの。いや、お笑いタレントというのでもない。『芸人』という感じでもないね。なんだろうね、あれは」
タモリ(71歳)は、つかみどころのない人である。でもなぜか「あんなふうに生きられたら楽しそうだな」「幸せそうだな」と思わせる不思議な雰囲気を持っている。
長年『笑っていいとも! 』(フジテレビ系)の構成作家を務めてきた鶴間政行氏はこう語る。「『いいとも! 』時代、タモリさんはよく『毎日、新宿のアルタに、午前10時に来て13時半すぎに帰る。その繰り返し。だから俺は新宿に通うサラリーマンなんだよ』と言っていました。
今、地方に行ってその土地を巡る『ブラタモリ』(NHK)が人気ですが、あれはタモリさんにピッタリな企画だと思います。
これまでは『いいとも! 』という制約があって地方に行くことができなかった。その分、今は自分の好きなことだけをやっている。これは32年も休むことなく『いいとも! 』を続けてきた『ご褒美』なのかもしれません」
もともとタモリは内輪ウケの「密室芸」を得意とした「キワモノ素人」としてテレビに登場。『今夜は最高! 』(’81年、日本テレビ系)などいわゆる「夜の顔」だったのが、『いいとも! 』で昼の顔となり、老若男女から親しまれる存在となった。なぜ本来、大衆的でないタモリに人は好意を抱くのか。どこに魅力を感じるのか。
まずはその知識の豊富さ、頭の良さだろう。
タモリとの共演も多いミュージシャンでタレントのなぎら健壱氏が語る。
「僕もよくゲストに呼んでもらう『タモリ倶楽部』(テレ朝系)では、タモリさんが台本を開いているのを見たことがない。全部頭の中に入っているんでしょう。そんなタモリさんがこだわりを持って、やりたいことをやるから面白い。
タモリさんは普通の人が興味を持ちそうなことに本気で興味を持ってやっている。タモリさん自身が、物事を楽しみたいという気持ちが強い。それが視聴者を惹きつけている」
鉄道、ヨット、アマチュア無線、古地図……多趣味としても知られるタモリだが、趣味を仕事にまで「昇華」するのが彼の特技だと言える。
常識的だから常識を壊せる
「お笑いビッグ3」タモリだけがうまく生きている「これだけの理由」 「今を肯定して生きればいい」
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タモリと二人で結成した「日本坂道学会」で会長を務める山野勝氏もこう語る。
「タモリさんと初めて会ったのは銀座のバーでした。僕が会社の人と坂道の話をしていると、タモリさんが『加わらせてもらってもいいですか』とスッと入ってこられてね。
タモリさんは、決してウンチクを傾けるわけではなく、ちょっと違う視点で気づきを与えてくれるので、聞いているほうも心地よい感覚になるんです。『ブラタモリ』での一緒に歩く女性アナウンサーとの軽妙な掛け合いも面白くて、ふざけたことを言っても嫌みにならない。『こういう大人になりたいな』と思わせるものがありますね」
博識のタモリだが、決してそれを自分からひけらかしたりはしない。タモリとの共演も多いタレントの勝俣州和氏が言う。
「タモさんはよく『知識をひけらかす料理人なんてろくなもんじゃない。客に緊張させる店は二流だ』と言っていました。その言葉通り、自分は決して威張らない。後輩であろうが垣根を作らず、『人の輪』を大切にされる方ですね」
このタモリの姿勢はどこで培われたのか。タモリがデビューするきっかけを作ったジャズピアニスト・山下洋輔氏が語る。
「最初にタモリと会ったのは福岡のホテルでした。コンサートの打ち上げで盛り上がっていると、突然、知らない男が中腰で踊りながら入ってきた。サックスの中村誠一がデタラメな韓国語で怒ったら、何倍も上手い言葉で返してきた。
こちらは喜んでもっとやれと囃し立てた。あとでタモリに入って来た理由を聞いたら『面白そうだったから』。その瞬間、こいつはデキると確信した。
今考えるとタモリは根っからの『ジャズ体質』なんですね。ジャムセッションと一緒で、楽器を持って急に入ってきても、上手ければ許せることを知っていた。当然気が合って、皆に見せたいと上京を誘ったんです。
タモリはやはり頭がいい。滅茶苦茶なようで、言って良いことと悪いことの見極めはきちんとしている。何が常識的かは子供の頃から見抜いていた。かつて作家の星新一さんが『常識的な人間でなければ非常識な面白さはわからない』と言っていましたが、まさにタモリはそれですね」
常識を理解しながら、それを壊していく――こうしてタモリはビートたけし(70歳)、明石家さんま(61歳)らと共に「ビッグ3」と呼ばれる芸能界の大御所となった。その「ビッグ3」も今やサラリーマンであれば定年を迎え、余生を過ごす年齢である。だが、3人の現在の生き方はそれぞれ異なる。
いい意味で適当
「お笑いビッグ3」タモリだけがうまく生きている「これだけの理由」 「今を肯定して生きればいい」
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タモリが自分の趣味ややりたい仕事だけを厳選し、人生を楽しんでいる一方、たけしやさんまは今も「お笑い」にこだわり戦い続けている。だが最近は「ちょっと世間からズレてきた」と感じさせることもある。
昨年末、コカイン疑惑により俳優の成宮寛貴が芸能界を引退したことについて、たけしは「やめなくたっていいんじゃないの。相手が『FRIDAY』なんだから、俺みたいにずうずうしく、いきゃあいいんだよ。じゃんじゃん嫌がらせの電話とか。俺が言えた柄じゃないけど」と自虐的にコメント。
続けて「それだけ気にかけられることは、売れてるってことだと思わないと」と持論を述べたが、ネット上では「売れていることと薬物疑惑は関係ない」との意見も挙がった。
もう一人の「ビッグ3」であるさんまは、いい意味でも悪い意味でも「お笑いモンスター」として突き進んでいる。今でも「自分が一番面白い存在である」ことを示そうと、若手芸人に混じって番組ではしゃぎまわっている。
こちらもネットでは「老害」「痛々しい」といった声が挙がることもある。二人とも少なからず好感度を落としているのである。
「たけしさん、さんまさんは常に前へ前へのタイプ。もちろん二人とも凄いんだけど、濃すぎるから毎日見ていると疲れてしまう。
でもタモリさんなら毎日見ていられる。決して自分の主張を強く出すこともなく、自分と違う意見の人を攻撃することもない。それでいて『ボソッ』と的を射た発言をする。タモリさんにはどこか『品』があるんです」(前出の鶴間氏)
タモリと昨年亡くなった大橋巨泉氏との共通点を指摘する人も多い。二人ともジャズ畑出身。知識が豊富で、遊びの達人、名司会者でもある。だが巨泉氏が国政や社会について警告を発し続けたのとは違い、タモリにはどこか世間を達観しているような部分がある。
それは、タモリが「他人に期待していない」からかもしれない。タモリはインタビューで「他人に期待などしなければ、つまらないことで感情的にならずにすむ。そうすれば人間関係に波風も立たなくなり、円満にだれとでも付き合える」と語っている。
『タモリ伝』の著者である片田直久氏は、こう分析する。
「元々早稲田大学でジャズをやっていたのも影響していると思う。本当は熱いんだけど、それを押し付けがましく見せない。一種のダンディズムを感じます。決して力まず、ジャズらしい脱力感を大切にしている」
「やる気のあるものは去れ」――これはタモリが、ニッポン放送の新年行事でスタッフに向けて書いた有名な格言だ。
「ガツガツしてもいいんだけど、それを表面に出すことをタモリさんはあまり好まない。誤解してほしくないのは、適当っていうのは、いい加減という意味ではなく、無理に気張らずに適度に肩の力を抜いてやろうよということ。それがタモリさんの哲学なんです。タモリさん自身がいい意味で適当な人間ですから」(前出の片田氏)
タモリ自身は好感度について昔からまったく意識していない。実際「人に好かれようとする自分が嫌い」とも語っている。
そんなタモリの性格を表すような発言がある。昨年『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で、ビストロSMAPの最終回のゲストとして出演した際のこと。
タモリは解散するSMAPのメンバーに対して「友達なんかいらないって。俺、あの歌が大嫌いなんだよ、小学校に入ったら『ともだち100人できるかな』って。そんなことで人生決めんじゃないよ。今どんどん友達減らしていってる」と語った。この発言に「タモリさんに救われた」と、共感の声が一気に広がった。
ネチネチもくよくよもしない
そもそもタモリは、お笑い芸人やスターになりたいと思って、この世界に入ってきたわけではない。前出の山下氏が振り返る。
「タモリは昔からギラギラしてなくてヘラヘラしていました。むしろ『どうせ俺は……』みたいな感じで、目標とか野望が垣間見えることはなかった。でもそれが逆によかった。タモリの今があるのも、生き方自体にそんなにこだわりがなく、流されるまま面白そうなところについていったからだと思いますよ。
タモリは何事にもこだわらないところが良い。変にネチネチしていない。きっと自由を愛しているんです。さんまさんやたけしさんは、芸人であるということをしっかりと自覚されているけど、タモリは自分で芸人だとは思ってないでしょう」
あくまで「自然体」で生きる――くよくよしない。それがタモリの生き方である。
「タモリさんは未来にも過去にもこだわらない人なんです。『現状維持』というのがタモリさんの座右の銘であるように、5年先のことなんて誰も分からないし、いくら過去を悔やんでも取り戻せないんだから反省もしない。それだったら今を肯定して生きればいいと。
だから年齢にもまったく縛られていない。ある時から『いいとも! 』でもタモリさんの誕生日を祝うのをやめました。タモリさんにとっては何歳になったというのは重要じゃないんです」(前出の鶴間氏)
タモリ曰く「自分も含めて皆、大した人間じゃない」。「気負わずもっと自然体で生きればいいんだよ」とタモリは教えてくれている。
「週刊現代」2017年3月11日号より
引用元
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