ワークライフバランスをあきらめない!精神科医が教える、脳のパフォーマンスを最大限に引き出す時間術
『脳のパフォーマンスを最大限に引き出す 神・時間術』(樺沢紫苑/大和書房) 1日が24時間しかないことに、絶望した経験のある人はいないだろうか。私たちの多くは、日々時間に追われながら過ごしている。朝起きて、通勤ラッシュに耐えながら会社に出勤する。そして夜は遅くまで働いて、心身を消耗して帰ってくる。自分だけのために使える時間なんてほとんどない。人によっては、睡眠や食事といった健康的な生活を営むのに必要な時間まで削っている人もいるかもしれない。一方で毎日精力的に仕事をこなしながら、しっかり遊び、きっちり眠り、まめに家族と団欒し、さらには運動や自己投資にあてる時間まで捻出している人々もいる。仕事とプライベートを見事に両立させている彼ら・彼女たちはとても幸せそうに見える。当然のことながら、メンタルの不調とも無縁そうだ。
彼ら・彼女たちは、たとえば超・短時間睡眠でも耐えられるような特異体質や、ありえないほど並外れた体力の持ち主なのだろうか? いや、そうとは限らない。現に本書『脳のパフォーマンスを最大限に引き出す 神・時間術』(樺沢紫苑/大和書房)の著者は、7時間以上寝ている。むしろ、睡眠不足は効率的に時間を使うためにはマイナスだという考えの持ち主だ。
忙しい人に限って、睡眠時間が短くなる傾向があります。睡眠時間を削って仕事や勉強に充てようとしているのですが、これは仕事の効率を確実に下げると同時に、健康も害し、命を削る行為なので、絶対にするべきではありません。
著者は自らの編み出した時間術において、脳のパフォーマンス、すなわち集中力を非常に重視する。確かに、脳に効率よく仕事をしてもらえれば、そうでないときに比べて仕事ははるかに早く終わる。結果的に、使える時間が大幅に増えることになるのだ。集中力低下を引き起こす睡眠不足などは、この時間術においては敵以外の何者でもない。
脳のパフォーマンスを邪魔する敵はまだまだいる。忙しさを理由にしての運動不足や、朝のメールチェック、ながら仕事など…どれもありがちな習慣ではあるが、脳の持つ集中力を上手に活かすという意味では望ましいものとはいえない。我々が「集中して働け」と命じたからといって、脳が猛然と働いてくれるとは限らない。脳に気持ち良く、バリバリと働いてもらうためには、事前の準備や環境作りが非常に大切なのだ。著者は精神科医なので、人の脳についてはプロである。火事場の馬鹿力をうまく使う、休息や場所替えなどで集中力をリセットする、など、主に最新の脳科学研究に基づいたそのメソッドには経験的に納得させられるものも多い。また、誰かと仕事をするときの心得や賢い自己投資のやり方、ストレス対策といった、社会人必須のスキルともいうべきトピックスにも触れられている。特に、正しい休息やリフレッシュの方法を知ることは、ストレス社会といわれる現代を生き抜くためにはとても大切だ。
本書の時間術によって得られた時間で、さらに仕事をこなそうとすることを著者は推奨していない。あくまで、余暇や自己投資や、家族団欒といったプライベートな時間に割くべきだと考えている。つまり、本書の時間術は徹底した仕事人間になるためではなく、あくまでワークライフバランスを実現し、人間として心身ともに健康的な生活を送るためにあるということになる。そもそも著者がこの時間術を編み出したのも、仕事のストレスで病気になったのがきっかけだ。
「忙殺」という言葉がありますが、仕事に追われると「心」を「亡」くして、病気になって本当に殺されてしまうのです。
著者はあとがきで、日本人のうつ病や自殺を減らすことが自分の精神科医としての使命だと書いている。そのうえで著者が問題視しているのは、ワークライフバランス軽視の働き方や生産性の低い長時間労働といった、日本人が陥りがちなワークスタイルだ。こうしたワークスタイルが労働者にストレスを与え、うつなどの精神疾患や過労死などの原因になっているのではないか? それは自らの苦い経験に基づいた著者自身の実感でもあっただろう。自分を救ってくれた時間術の秘密を明かすことで、誰もが健康で幸福に生きられるようになってほしい。この本にはそんな精神科医としての著者の願いがこめられている。
文=遠野莉子
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