不注意・せかせか・衝動的「ADHD脳」社員の活かし方
05.09 08:00ダイヤモンド・オンライン
配属された新入社員もそろそろ職場に慣れる頃だ。なかには、やたらと不注意で気が散りやすい、非常に落ち着きがないなどの「変わった新入社員」がいるかもしれない。こうした人は「脳に癖」を持っている場合が少なくない。「ADHD脳」と呼ばれるもので、ADHD脳の人は、常識に囚われていない分、いい思いつきやアイデアを生む。このため、外資系のIT企業やクリエイティブな業種に多いと言われる。ADHD脳の人は職場ではどんな傾向があるのか、実際にどう接すべきなのか。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した専門医、司馬理英子医師に聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
「この子ヤバくない?」 新人の言動に不安が募る
新年度が始まって、緊張しまくっていた新入社員たちも職場に慣れ、“その人らしさ”がはっきりと見えてくる今日この頃。
(あれ、この子ヤバくない?)と、心配になる次のようなシーンに心当たりはないだろうか。
◎シーン1
今日は課の勉強会――。新人たちには、仕事を通して発見した会社の課題と改善策について発表してもらうことになっている。中堅社員のAさんが特に期待しているのはB君だ。きびきび動くし、この企画の話があった際には、ヤル気をみなぎらせていたからだ。ところが……。
Aさん「どう、発表の準備はできた?」
B君「え、なんのことですか?」
Aさん「勉強会のことだよ。会社の課題と改善策について、君たちが発表することになっている……」
B君「あ~っ、今日でしたね。忘れてました。いけない、急いでまとめないと。僕、いい考えが思い浮かんだので、じっくりやろうと思っていたんですよ。うわぁ、間に合うかな~。あれ、資料がないぞ」
司馬理英子(しば・りえこ)/司馬クリニック院長。岡山大学医学部、同大学院卒業。 1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てるなか、ADHDについての研鑽を深める。 1997年『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)を刊行。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した同書は、大きな反響を呼び、ベストセラーとなる。同年帰国し、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニックである「司馬クリニック」を開業。子供と大人の女性の治療を行っている
PCのデータや、デスクの上、引き出しをひっくり返して何やら探し回っているB君。発表に間に合わせるためにAさんは、その日、本来はB君がやるべきだったアポ取や雑務をすべて代わってやり、無事、発表させてあげることができた。
B君の発表は斬新で光るものがあり、評判は上々だった。ただ、誤字脱字等のケアレスミスの多さが際立っていた。
(慌てていたから仕方ない)とは思うが、それにしてもB君は遅刻が多いし、デスク周辺も乱雑でいつも探し物をしており、ロスタイムが多い。
(ひょっとして、「ヤル気」はポーズなんじゃないか)
Aさんは徐々に不安を募らせるのだった。
◎シーン2
(あの子、いつも忙しそう。頑張ってるな)
Cさんは、隣の課の新人、D子さんを好ましく思っていた。確かにD子さんは多忙で、コマネズミみたいに動き回っている。フットワークがいいと言えば聞こえはいいが、忙しいのは、そのせいだけではない。
実はD子さんは、「自分で自分を忙しくさせてしまうタイプ」だ。
例えば、こんな感じである。
社員1「ちょっとコピー取ってくれる、大至急」
D子さん「はい、ただ今」
社員2「コピー中悪いけど、今朝お願いしたアポイント、取ってくれた?」
D子さん「あ、はい、まだです。すみません。一度電話したんですが席を外されていたので。すぐ電話します」
社員3「お昼、新しくできたお店行ってみない」
D子さん「行きます、行きます。あ、クーポンあるかもしれません。ネットで調べてみますねー(すぐにスマホをいじりはじめる)」
社員1「ね、コピーどうなった。さっきお願いした」
D子さん「すみません、終わってます(コピー機へとバタバタ走る)」
興味が次々と移り変わり、それまでやっていたことを忘れてしまうために、万事中途半端となり、D子さんは必要以上に忙しくなっていることに、Cさんが気づくのも時間の問題だ。
◎シーン3
(もう勘弁してくれないかな。付き合いきれないよ)
新入社員のE男君は、LINEの画面を見ながらつぶやいた。深夜2時。発信者は同期のF君だ。2人はある企画をコンビでやるよう命じられたのだが、F君のハッスルぶりが凄い。誇張じゃなく24時間、思いつきを次々とLINEしてくるのだ。というか垂れ流してくる。「どう思う?ちゃんと読んでる?」と、E男君には熟考と速やかなレスポンスを求めて来るからたまらない。
しかも、ちょっとでも時間を空けようものなら勝手に動き出し、「E男が動かないので僕一人で来ました。これお願いします」と、不要な協力要請までしてしまう。
ついに、E男さんは我慢できなくなった――。
E男さん「F君、LINEはさ、もう少し考えてからしてくれないかな。深夜の思いつきは感情的になりやすいからメールしない方がいい、って言うじゃん。LINEじゃなく、会社で直接会って話そうよ」
F君「何言ってんだよ。そもそもお前がアイデアをなかなか出さないのが悪いんじゃないか。思いついたら即送っておかないと忘れちゃうよ。鉄は熱いうちに打てっていうだろう。どうしてそれがわからないんだい。ヤル気あるの?。もう、お前なんかと組まされて、俺、ほんと運が悪いよ、最悪だよ」
E男「そこまで言う?お前何様のつもりだよ。そっちこそ、全然役に立たないクソみたいな思いつきを次から次と」
F君「クソみたいだって。もういっぺん言ってみろよ」
ここから先は修羅場。コンビの運命は想像にお任せする。
これら3つのシーンには、共通する「脳の癖」が隠れている。「ADHD脳」と呼ばれる発達障害の1つだ。それはどういうものなのか、発達障害専門のクリニックで治療に当たっている司馬理英子医師に教えてもらった。20人に1人はいる 「ADHD脳」は身近な存在
――「ADHD脳」とはどういうものですか?
発達障害の1種で、脳の癖のようなものです。例えば脳には、たくさんの機能を請け負う場所があるのですが、ADHD脳の場合は、毎日決まったことをコツコツやるための場所や、日常生活を確実にこなしていくための場所が上手く機能しません。
そうしたADHD脳の人には、3つの特徴があります。1つ目は『不注意』。注意力や集中力を持続できず、気が散りやすい。忘れものや失くしものがすごく多い。これらは、忘れてはいけないという意識を持続できないために起こります。同様に、遅刻、ケアレスミスなど、不注意が原因で起こるトラブルは少なくありません。
2つ目は『多動性』。落ち着きがない。大人なのにいつも慌てている印象です。あっちを考えたり、こっちに気をとられたり、せわしなく動いています。よく物にぶつかったり、部屋やデスクの中が散らかって収集がつかなくなるのもこのタイプです。フットワークが軽いとも言えますが、そそっかしさが重なると大変です。単純作業も苦手です。
そして3つ目は『衝動性』。自分の感情や周りの刺激に反応しやすい。パッと思いついたことはすぐやらないと気が済まない。今はこれをやっている場合じゃない、といったストッパーが効かない傾向があります。相手の話をさえぎってしまったり、並んで順番を待つのが苦手なのもこのタイプです。失言が多いのも特徴です。
不注意・せかせか・衝動的「ADHD脳」社員の活かし方(下)
>>(上)より続く
――シーン1は『不注意』、2は『多動性』、3は『衝動性』にフォーカスした事例ですが、どこにでもいる人にも思えます。
そうですね、すごく身近だと思います。日本人の子どもを対象にした調査では、全体の5%がADHD脳でした。小さな頃は、ものすごくおしゃべりだったり、ちょこちょこ動き回ってものすごく落ち着きのない子どもっていますよね。
大人になると、だいたい3分の1はよくなり、3分の1は表だっては判らなくなる。いわゆる『片づけられない症候群』で、外ではなんとかなっているものの家に帰るとゴミの山で、人知れず悩んでいるといった程度に改善し、残りの3分の1は大人になっても改善しないで周囲を困らせていると言われています
――脳に原因があるとしても、病気ではないのですか?
病気ではなく、発達がゆっくりしている、あるいは『脳の癖』と考えてください。子どもの場合だと、ADHD脳の子は、実年齢×3分の2ぐらいといわれています。
関係しているのは、脳の『前頭前野』と『側坐核』という領域です。ここは感情のコントロールタワーみたいな場所なのですが、ADHD脳の人は、ここで働くべきドーパミンなどの神経伝達物質が上手く働かないため、特徴的な症状が出てしまうと考えられています。単調な仕事が苦手で。ワクワクするような仕事を追い求めるなどの傾向があります
――育て方も影響していますか?
影響しますね。片付けが苦手な家庭で場当たり的に育てられると、お子さんが片づけられない大人になっても不思議ではありません。成長過程でのしつけや、社会でのトレーニングによって、改善される可能性は多々あります。ただし、トレーニングにもコツがあります。
ADHD脳の人は、日常において、さまざまな『困り感』を持っています。学校や職場で『ダメな人』と思われて過小評価されていたり、自信を失い、能力を十分に発揮できなかったり、叱られて委縮して、ますますできなくなっていく悪循環に陥り、うつ状態になっている人がたくさんいます。その一方で、必要なしつけやトレーニングがなされないまま、社会に出てきてしまう人も結構いますね
締め切りは早めに
フォローとチェックは必須――そのような人が職場に入って来た場合、上司や同僚はどうしたらいいのでしょう?
きっちりしたいタイプの人にとっては、耐え難い相手かもしれませんが、以下のような対処のコツを掴めば、だいぶ楽になると思います。
◎ADHD脳タイプの対処法
(1)締め切りは早めに設定、中間チェックも忘れずに
期限に余裕を設けても、ぎりぎりまで放置し、結果的に遅れたり、やっつけ仕事になるのがADHD脳です。期限は常に、実際よりも早めの日時を伝えましょう。ただし、「いつも、どうせ早めに言っている」と見抜かれないよう注意が必要です。
そして中間で何度も、「どうなっている」「できているところまで見せて」とチェックしてください。
(2)メンタルサポートも重要
根気に欠けるため、難しいところや分からないことがあると作業が完全にストップする傾向があります。こまめに相談に乗ってあげて、随所でアドバイスを与えましょう。
(3)段取りを立ててあげる
仕事の手順、段取りが苦手なのも、ADHD脳の特徴です。一度に複数のことを頼むのはやめて、1つの仕事を終えたのを確認してから、次の仕事を頼むようにしてください。
(4)ダブルチェックは必須
普通ではありえないような、簡単なところでミスをするのも特徴です。経営陣やクライアントに提出する資料等は、必ず複数の人間で、ダブルチェック、トリプルチェックを忘れずに。忘れ物が多いので、大切なものは持たせないでください。
(5)せっせと「言葉がけ」
気が散りやすいADHD脳の集中力を維持させるには、言葉がけが大切です。もともと悪気があって気が散っているわけではないので、『頑張ってるか』の一言でも効果はあります。気にかけてあげてください。
(6)単調な仕事をさせるのは諦めて
単調な仕事は向いていません。はかどらないばかりか、ミスを連発し、フォローするために余計な労力を傾けなければいけなくなるでしょう。できれば、単調な仕事は、他に引き受けてくれる人を付けた方が皆のためになります。
(7)適性を見極める
苦手を克服させようとか、社会人ならこうあるべし、といった押し付けはだめです。適正を見極めて配属してください。そうでないと、嫌気がさしてすぐに辞めたり、あの上司は何もわかっていないと怒りを募らせます。
ただ、適性がある仕事のなかでも、好きなことばかりやりたがる傾向があるので、『今は、これをやらないとね』と手綱を締めてあげることも重要です。
欠けたところはあっても
きらりと光る人を使いこなすか――分からないではありませんが、そこまでの気遣いをするのは、甘やかしてしまうことにはなりませんか? 大変過ぎます。
そうですね、確かに大変ですね。でも、ADHD脳の人を活かすには、モチベーションを持続させることが大切です。会社としては、採用したからには魅力があるということですよね。実は、ADHD脳の人は、自由な発想で殻を破れる人が多いのです。
変に矯正して萎縮させたり、辞められてしまうよりは、能力を上手く引き出すほうがいいのではないでしょうか。
――言われて見れば、外資系のIT企業やクリエイティブな業種には、ADHD脳の人が多いような気がしますね。
多いと思いますよ(笑)。特に目立つ能力はなくても、常識的で地道にコツコツとやってくれる社員を集めるのか、欠けているところもあるけれど、きらりと光るところのある社員を上手く使いこなしていくのかの選択です。
ADHD脳の人は、常識に囚われていないからこそいい思いつきがでたり、『それって無理でしょう』と誰もが反対するようなことにチャレンジしたりできるのです。どうか上手く、仕事に活かしていただけたらと思います。
◇
本人に悪気がない以上、叱責したり怒ったりするのは良策ではない。「脳の癖を憎んで、人を憎まず」。上手く活用することが、会社の発展につながると、割り切ってみてはいかがだろう。
引用元
職場に非常に落ち着きがないなどの「変わった人」がいるかもしれない。こうした人は「脳に癖」を持っている場合が少なくない。「ADHD脳」と呼ばれるものだが、実際にどう接すべきなのか、専門医に聞いた。■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
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