前回のテーマは睡眠時間の男女差であった。日本は先進国の中では珍しく女性の睡眠時間が男性よりも短く、とりわけ有職女性でその傾向が著しいことを紹介した。今回は女性ならではの睡眠障害を取り上げる。
前回紹介したように、健康時の必要睡眠時間や睡眠構造(睡眠の深さや各睡眠段階の比率)には男女間で大きな差異はない。それにもかかわらず、多くの睡眠障害では有病率に男女差がある。例えば、睡眠時無呼吸症候群や夢の内容そのままに体が動いてしまうレム睡眠行動障害は男性に多い。逆に、不眠症、足のほてりやむずむず感で眠れなくなるレストレスレッグス症候群、眠りながらがっつり食べてもまったく覚えていない睡眠関連摂食障害などは女性に多い。
睡眠障害の有病率に男女差が生じるのは、肥満度やストレスへの抵抗性、自律神経やホルモン分泌機能など睡眠調節に関わる心身機能の障害の受けやすさ(脆弱性)に男女で違いがあるからだ。そのほか、育児、家事、就業などの生活要因が複雑に絡み合う。
特に、月経周期、妊娠や出産(産じょく)、更年期などの女性ホルモンに関連した睡眠障害は女性に特有であり、睡眠障害の中でも非常にユニークな存在である。
月経がある女性の約1割では、月経の1週間ほど前から腹痛、頭痛、腰痛、乳房痛などさまざまな体の痛み、むくみ、イライラや気分の落ち込みなどの不快な症状が出現する。同時に、不眠や日中の眠気など睡眠にも変化が起こる。
月経の開始と同時に、もしくは数日以内に症状は自然に消えるとはいえ、ひと月の4分の1強をこれらの症状で悩まされるのだから、ご本人にとってはかなり辛い。私の知人の研究者(男性)は「食卓に食器や箸を置く音量の微妙な変化」で奥さんよりも早く(!)兆候を察知し、皿洗いや洗濯物の手伝いを積極的に始めると聞いて、仲間内(男女)でも皆感心しきりであった。当然ながら夫婦仲は良い。
引用元前回のテーマは睡眠時間の男女差であった。日本は先進国の中では珍しく女性の睡眠時間が男性よりも短く、とりわけ有職女性でその傾向が著しいことを紹介した。今回は女性ならではの睡眠障害を取り上げる。
前回紹介したように、健康時の必要睡眠時間や睡眠構造(睡眠の深さや各睡眠段階の比率)には男女間で大きな差異はない。それにもかかわらず、多くの睡眠障害では有病率に男女差がある。例えば、睡眠時無呼吸症候群や夢の内容そのままに体が動いてしまうレム睡眠行動障害は男性に多い。逆に、不眠症、足のほてりやむずむず感で眠れなくなるレストレスレッグス症候群、眠りながらがっつり食べてもまったく覚えていない睡眠関連摂食障害などは女性に多い。
睡眠障害の有病率に男女差が生じるのは、肥満度やストレスへの抵抗性、自律神経やホルモン分泌機能など睡眠調節に関わる心身機能の障害の受けやすさ(脆弱性)に男女で違いがあるからだ。そのほか、育児、家事、就業などの生活要因が複雑に絡み合う。
特に、月経周期、妊娠や出産(産じょく)、更年期などの女性ホルモンに関連した睡眠障害は女性に特有であり、睡眠障害の中でも非常にユニークな存在である。
月経がある女性の約1割では、月経の1週間ほど前から腹痛、頭痛、腰痛、乳房痛などさまざまな体の痛み、むくみ、イライラや気分の落ち込みなどの不快な症状が出現する。同時に、不眠や日中の眠気など睡眠にも変化が起こる。
月経の開始と同時に、もしくは数日以内に症状は自然に消えるとはいえ、ひと月の4分の1強をこれらの症状で悩まされるのだから、ご本人にとってはかなり辛い。私の知人の研究者(男性)は「食卓に食器や箸を置く音量の微妙な変化」で奥さんよりも早く(!)兆候を察知し、皿洗いや洗濯物の手伝いを積極的に始めると聞いて、仲間内(男女)でも皆感心しきりであった。当然ながら夫婦仲は良い。
■「不眠あり=不眠症」「眠気あり=睡眠不足」ではありません
50歳前後になるとエストロゲンが低下し閉経(更年期)を迎える。更年期女性の約2割が更年期障害に悩まされる。ほてりやのぼせ、多汗などの症状(血管運動神経症状と呼ばれる)のほか、6割以上で入眠困難や中途覚醒、熟眠困難など何らかの不眠症状がみられる。
不思議なことに更年期障害の不眠では睡眠ポリグラフ検査で測定した睡眠状態がさほど悪くないことが多く、その割に睡眠に関する不満足感(主観症状)が強いという特徴がある。更年期の女性では睡眠をはじめとした種々の身体不調に対して過敏になっているという側面もあるようだ。
また、更年期女性では産じょく期と同様に精神疾患のリスクも高い。更年期障害で病院を受診した女性の約25%で気分障害(うつ病)が、約10%で不安障害が見られる。このようなメンタルヘルスの問題で悩んでいる女性は精神症状よりもむしろ不眠や眠気をメインに訴えることもあるため注意が必要である。「不眠あり=不眠症、ではない」「眠気あり=睡眠不足、ではない」という教訓を忘れてはならない。
このように、女性はさまざまなライフステージで女性特有の睡眠障害に悩まされているのである。晩酌を済ませて洗い物も手伝わない夫が隣で大イビキをかいて安眠妨害したのでは奥様のイライラに拍車がかかることは間違いない。ぜひ、先出の私の知人研究者のような「スキル」を身につけていただきたいものである。
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2016年12月22日付の記事を再構成]
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO11538100R10C17A1000000?channel=DF130120166098
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