やるべきことを締切直前まで先延ばしにしてしまう心理に迫る「Inside the mind of a master procrastinator」
by Holly DeVane
宿題・仕事・論文執筆など、やるべきことはあるのに後回しにしてしまい、ついには締切直前に不眠不休で取り掛かる羽目になる……という経験をしたことがある人も多いはず。「やるべき」とわかっているにも関わらず、人はどうして先延ばしにしてしまうのか、という心理についてブロガーのティム・アーバンさんがTEDで語ると共に、その真の恐ろしさに迫っています。
Tim Urban: Inside the mind of a master procrastinator | TED Talk Subtitles and Transcript | TED.com
https://www.ted.com/talks/tim_urban_inside_the_mind_of_a_master_procrastinator/transcriptムービーは以下から見ることができます。
Inside the mind of a master procrastinator | Tim Urban – YouTube
大学生の頃は政治学を専攻し、論文を山ほど提出しなければならなかったというティム・アーバンさん。
通常、学生が論文を書くときの進み具合は以下のような感じになります。つまり、ゆっくりと書き始め、中断したりペースを速めたりを繰り返しつつ、締切に向かって徐々にスピードを上げていくという形。
一方、アーバンさんの論文はたいてい以下のような形で進みました。もちろん、目標は徐々に書き進めることだったのですが、いつの間にか締切直前に慌てる事態になっているのです。
しかし、90ページの論文を書く、という課題を出された時、さすがにいつもの進め具合では無理だと思い、スケジュールを立て直しました。それがコレ。
締切までは3カ月。最初のうちは分量が軽く、締切に近くなっていくにつれ、段階的にやることが多くなっていくという完璧な計画です。
しかし、計画の初月を終え、まったく作業が進んでいなかったため、アーバンさんは計画を変更しました。初月に終えるはずだった作業を残りの時間に割り当てたのです。やることは少し増えましたが、まだ実現可能な範囲。
しかし、ほとんど何も手をつけていないうちにさらに1カ月が経過。最初の2カ月でじっくり進めるはずだった作業は、残り1カ月に積み上げられます。
そして1カ月が2週間になり……
1週間になり……
最終的にアーバンさんは普通の学生ならば1年をかけて仕上げる90ページの論文を不眠不休の72時間で仕上げたとのこと。
そして、論文を提出した後、アーバンさんは大学から1本の電話を受け取り、こう言われます。
「君の論文は、今まで見た中で最もすばらしい」
……なんてことは起こりませんでした、とアーバンさん。「論文は実際、ひどいものだった」と語ります。
アーバンさんは「Wait But Why」といブログを書いています。やることを予定通りこなせずにいつも締切ギリギリになってしまうアーバンさんの行動は、予定通りに行動できる人をいつも困惑させていたため、アーバンさんはプロクラスティネーター(ぐすぐすと先延ばしにする人)についてブログを書こうと決めました。そこでまず立てた仮説が「予定通りに動ける人と、予定を先延ばしにしてしまう人は脳が違う」ということ。
「私はMRIラボで自分の脳をスキャンしてもらい、予定通りにこなせる人の脳と比較しました。今日はその結果をみなさんに見てもらいます。注意深く違いを観察してくださいね」
「これがプロクラスティネーターでない、予定通りにこなせる人の脳です」
そしてこれがアーバンさんたちプロクラスティネーターの脳。理性のある決定者がかじを取る横に欲望のサルがいます。
どういうことかというと、どちらの脳にも理性のある決定者がいてハンドルを握っている、つまり予定通りに物事を進めようという気持ちはあるのですが、プロクラスティネーターの脳には「予定」が嫌いなサルがいて、「さあ、やるべきことをやるぞ!」という決定者の意志に対して「嫌だ!」と反対するわけです。
そしてハンドルを奪い……
「トーニャ・マキシン・ハーディングがナンシー・ケリガン襲撃事件に関わった経緯をWikipediaで調べまくるぞ!」と、本来やるべきことと全く関係のないことをしてしまうという事態が起こります。
そして冷蔵庫の中を見に行ったり、冷蔵庫から帰ってきてYouTubeスパイラルにどっぷりはまり、最終的にはなぜかジャスティン・ビーバーの母親のインタビューを見ている、とアーバンさん。
なぜこんなことが起こるのか?というと、サルには「今」しかなく、過去や現在を持たないため。サルが求めるのは現在の気楽さ・楽しさなのです。動物の世界ではそれで問題ないのですが、人間世界となると話が異なります。
人間は食べて寝て、次の世代へバトンを渡していく必要がありますが、サルにはそのことが理解できません。理性ある決定者は、他の動物には理解できない能力を我々に与えています。それが「長期的に物事を見る」「物事の全体像を見る」という能力です。
時には「全体像」のためにやるべきことが、気楽で楽しいこともあります。それが下記の図のうち緑色の部分です。
しかし、より大きな「全体像」のために、楽しくなく、困難なことを行う必要があることも。この時、人の中には葛藤が生まれます。そしてプロクラスティネーターは葛藤が生まれた時、気楽で楽しい、しかし全体像のためには意味をなさないオレンジ色の部分に逃げます。アーバンさんはこのオレンジ色の部分を「闇の遊び場」と呼んでいるとのこと。
闇の遊び場は、「すべきでないタイミングで楽しいことをしてしまう」という知る人ぞ知る場所。遊ぶ時は罪悪感や恐怖心、不安などがつきまとう、本当の楽しみとは似て非なるものです。
しかし、いつまでも物事を先延ばしにすることはできません。90ページの論文を先延ばしにし続けたアーバンさんも、締切の72時間前には論文に取り掛かりました。では、闇の遊び場から抜けだし、理性のある決定者がかじをとって人がやるべきことに向かう時、何が起こるのでしょうか?
ここで登場するのが「パニック・モンスター」です。パニック・モンスターは普段眠っていますが、締切が近くなったり、公衆の面前で恥をかきそうになったり、とにかく人が恐怖する事態が迫ってくると突然起き上がります。そしてパニック・モンスターにおびえたサルはどこかに逃げ去ってしまうのです。
最近ではTEDへの出演依頼がやってきた時に、パニック・モンスターが目覚めた、とアーバンさん。人に「TEDに出たんだ!」と話すことを夢に見ていたアーバンさんは6カ月前に依頼を受けて2つ返事で了承しましたが、その時、「何の依頼を受けたかわかってる?座って今から仕事を始めましょう」と語りかける理性ある決定者の声と、「君の決定には賛成!でもGoogle Earthを開いてインドの様子をズームしてみようよ。上空200フィート(約60m)から近づいていけばインドという国の雰囲気がよくわかるよ!」というサルの声が同時に頭に響いていたとのこと。
6カ月が2カ月になり、2カ月が2週間、2週間が1週間となり……
ある日、パニック・モンスターが目覚めます。
すると、みんなびっくりして……
サルは木の陰に逃げてしまい、理性ある決定者が再びかじを取れるようになります。
パニック・モンスターの存在が、書き出しに2カ月かかった論文を72時間で仕上げさせ、どこに隠していた?というような集中力を発揮させるわけです。このことをアーバンさんがブログに書いた時、世界各国のさまざまな仕事についている人たちから反響がありました。職種は問わず、銀行家、画家、エンジニア、博士号を取得しようとする学生まで、多くの人がプロクラスティネーターであることを悩んでいたのです。
しかし、ブログの明るい調子とは対照的に、メールやメッセージをよこした人はみんな真剣にプロクラスティネーターであることにいらだちを感じていました。
アーバンさんは、プロクラスティネーターには論文や仕事のような「締切がある時に起こるタイプ」と「人生で成功する」や「健康を保つ」というような「締切がない時に起こるタイプ」の2種類があることに気づきます。問題は、前者の場合はパニック・モンスターが現れるのに、後者の場合はなかなか現れてくれないことです。そのため、後者は笑い話で住むような短期的なプロクラスティネーターよりも問題が深刻化しやすく、「やる気になれない」「自分はだめなヤツだ」と一人で思い悩むことがあります。彼らの抱える問題は「夢を実現できないこと」ではなく、「夢を追いかけだすことさえできないこと」なのです。
プロクラスティネーターでない人などこの世にはいない、とアーバンさん。我々が覚えておくべきなのは、「締切がない時、サルは最もずるがしこく私たちをだます」ということ。
ここでアーバンさんが示したのは「ライフカレンダー」と呼ばれるもの。下記の画像では、ボックス1つが90歳まで生きたときの1週間にあたります。すでに我々はいくつかのボックスを塗りつぶすべきところにおり、残りのボックスも決して数えられない数ではないことがわかります。
「私たちは自分がプロクラスティネーターであることを自覚し、サルの存在に気づかなければならない。そして今すぐ始めなければいけません」とアーバンさん。「今日じゃなくても、まあ、そのうちに」
引用元:http://gigazine.net/news/20160411-inside-procrastinator/