若者の死因「自殺」が最多 原因となる「抑うつ」の症状と予防
ざっくり言うと
- 5月末に政府発表の「自殺対策白書」によれば15~39歳が最多となっている
- 原因は「抑うつ」で、倦怠感、不眠、食欲不振、体重減少などの症状が発現
- 独りで抱えこまずに、かならず誰かに助けを求めることが予防につながる
若者の死因「自殺」最多が意味すること~メンタルヘルスの大原則とは 日本社会にも漂う漠然とした不安
日本では、いまだ自殺が死亡原因の多くを占めている。最新の「自殺対策白書」によれば、自殺者数は減少傾向にあるが、15~39歳では最多の死因となっている。自殺予防にくわしい高橋祥友・筑波大医学医療系教授は現状をこう見る。
なぜ若者に自殺が多いのか
5月末に政府は自殺対策白書を公表した。最新のデータが明らかになったわけだが、少し注意してとらえなければならない点がいくつかある。
まず、ティーンエイジャーから若年成人までの世代では、自殺が死因の第一位であるというのは、何も最近始まった傾向ではなく、これまでも一貫している傾向である。
平成27年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合(自殺対策白書2017年版より)
少し考えてみるとすぐにその理由がわかるはずである。
子どもの頃は病気による死亡が多いが、成長するにつれて若い世代では病死は少ない。そして加齢とともに病気にかかる率がふたたび増していき、病気による死も増えていく。
という訳で、10~20代の年齢層では、自殺や不慮の事故死が死因の上位になるというのはわが国ばかりでなく、世界的な傾向である。私が医師国家試験を受験したのは今から38年前であるが、当時も公衆衛生学の試験によく出題される問題であった。
ただし、30代になっても自殺が死因の第一位というのは近年のわが国の傾向と指摘できる点であるだろう。
経済が安定していて、現場で人を育てるという雰囲気が最近では失われつつある。職場で若い社員を育てるだけの余裕がなく、入社したばかりの社員であっても、即戦力を求められる。
以前に比べると、職場の和も失われ、個々の社員が孤立しているという雰囲気もごく当たり前のような現状であり、この世代の自殺率上昇に関与している可能性がある。
自殺者数の推移(自殺対策白書2017年版より)
メンタルヘルスの大原則
自殺に至る前にはさまざまな形の心身の不調が現れてくるが、心のバランスを保つための大原則は、①早期の問題認識と②適切な援助希求の2点に尽きる。
誰でも長い人生の間には悩みを抱えたり、心身の不調を抱えたりすることがある。それに早い段階で気づくことが重要である。悩みや問題を抱えることはけっして恥ずかしいことではない。
そして、それに気づいたら、独りで抱えこまないで、かならず誰かに助けを求めることが重要である。自分の周囲にいる信頼できる人でもよいし、身近な人には話しづらいというのであれば、精神保健の専門家に相談するのもよいだろう。
真剣に話を聞いてくれる人を見つけて、悩みを言葉に出して表現してみると、それまでは囚われ切っていた頑なな考えから少し解放されて、別の角度から問題を眺めて、さまざまな解決策も思いつく可能性が出てくる。
すっかり追いつめられてしまうと、そもそも「誰かに相談しても、意味がない」といった気分に囚われきってしまうので、健康なうちに、もしも悩みを抱えたら「誰に相談することができるだろうか?」と考えておくのもよいだろう。
具体的にどうすればよいのか
最近では、子どもの自殺が起きると「いじめ」、大人の自殺では「職場の問題」ばかりに焦点が当てられる傾向がある。
たしかに、対人関係のトラブルや周囲の人の不適切な対応が自殺の遠因になっている場合もある。しかし、一つひとつのストレス因は実際にそれが起きている時点では、よもや自殺の原因になるとはなかなか認識されにくいというのが実際である。
しかし、共通している点は、自殺が生じる前には、明らかな「抑うつ」がほとんどの場合出現してくるということである。その抑うつの症状を適切にとらえて、それに適切に対処するというのが、予防につながる。
抑うつの三大症状としては、気分や感情、思考や意欲、身体に現れる症状がある。
気分や感情の症状:気分が沈む、涙もろくなる、不安で仕方がない、落ち着きがなくなる、悪いことが起きるとすべて自分の責任であると考える、自分などいないほうがよいと思う、死にたくなるといった症状である。
思考や意欲の症状:仕事の能率が落ちる、注意が集中できない、ごく日常的な事柄についても決断力が鈍る、これまでは好きだったことに対しても興味がわかないなどの症状である。
身体の症状:全身のどの部分に症状が出てきても不思議ではない。しかし、その中でもほぼ必発であるのは、倦怠感、不眠、食欲不振、体重減少などである。
ところが、これが抑うつ状態で現れる身体の症状とは気づかず、身体の病気になったのではないかと思いこむ人も少なくない。実際に身体の病気が隠れていては困るので、ぜひ検査を受けてほしい。
しかし、検査を受けても異常が見当たらないのに、不調が続く場合には、「抑うつ」の可能性を考えて、専門医のもとに受診してほしい。
抑うつに傾きやすい性格傾向
抑うつに傾きやすい性格傾向として従来からよく指摘されているのは、生真面目、几帳面、仕事熱心といった性格だろう。
たしかにこのような傾向は一般的であるのだが、もう一歩踏みこむと、自己不全感、完全癖、対他過敏性といった特徴も現れてくる。
自己不全感:周囲の人々からは優秀で、仕事のできる人だと評価されているものの、本人は自己の能力に自信がなく、いつかは無能な点があばかれてしまうのではないかといった不安が強い。
完全癖:自己の能力に対する不全感があるため、それをカバーしようとして徹底的に仕事に打ちこもうとする傾向がある。しかし、「完全に」という目標自体が、達成不能な目標となる。
対他過敏性:「これだけ努力したのだから、満足だ」と自己の達成したことを認められずに、評価の尺度はつねに外部の世界にある。要するに、「自分の仕事が他者からどのように評価されているのか」という点ばかりに関心が向いている。
抑うつに傾きやすい性格傾向としてはこのような点が典型的に認められる。
なお、抑うつに対する心理療法として近年高く評価されている認知療法では、抑うつに傾きやすい人の世界観を次のようにとらえている。
このような人は自分の過去は失敗だらけだったととらえている。そして、現在の自分も大したことはできていないと認識している。このように過去も現在も否定的にとらえているために、それを基に未来を予測すると、肯定的な予測がまったくできない。
このような過去、現在、未来をすべて否定的にとらえる世界観こそが、抑うつに傾きやすい人に特徴的であるという。
TALKの原則
さて、自殺の危険が高いと感じる人を前にしたら、どのように対応すべきだろうか?
カナダの自殺予防のグループがこれをTALKの原則としてまとめている。これはTell, Ask, Listen, Keep safeの頭字語である。
T:言葉に出して、相手のことを心配していることを伝える。
A:自殺について率直に尋ねる。真剣に聴く姿勢があるならば、自殺を話題にしても、背中を押すことにはならない。これが自殺の危険を予測する第一歩となる。
L:徹底的に相手の言葉に耳を傾ける。傾聴である。相手は自分の問題に対する解決策は自殺しかないと思いこんでいる。その話を聞いているのが健康な人であるならば、解決策を10や20ただちに思いつくだろう。しかし、あまりにも性急に解決策を示そうとすると、「この人も私の悩みを聴いてくれない」というメッセージになってしまい、開きかけていた心の窓を閉ざして、自殺が実行されるきっかけになるかもしれない。
K:危険と判断したら、独りにさせない。一緒にいてあげながら、必要な援助を求める。強い自殺願望があったり、つい最近、自殺未遂を認めたりしたような場合には、確実に専門の精神科治療に導入するようにしてほしい。
社会に漂う漠然とした不安
自殺を予防するには、それに先行する抑うつに敏感に気づくことが重要である。
抑うつに陥ると、自己評価が極端に下がり、「自分には何の価値もない」「生きるに値しない」といった否定的な思考に囚われ切ってしまい、攻撃性が自己に向けられる可能性も高まる。
重症になると正常な判断力が弱まり、自力で適切な対処をすることが難しくなる。このような場合には、周囲の人々が抑うつに気づいて、適切な対処を取る必要がある。
最後に、あるエピソードを紹介しておこう。
自殺率の上昇は東アジア共通の問題であり、数年前に、台湾、韓国、日本の専門家が台北に集まり、意見交換をする機会があった。韓国の自殺率は近年、日本を上回っている。韓国の精神科医が自殺率上昇の社会経済的背景について発表した。
そのうえで、次のような点を指摘した。
「韓国はある程度の民主化も経済発展も達成した。しかし、この国が将来どのような方向に進んでいくのか見失っているのが現状である。この漠然とした不安は社会経済指標ではとらえられないが、自殺率上昇の背景に存在する最大の要因と考えられる」というのだ。
この発表を聴いていて、私はこれは韓国だけではなく、まさに日本にも当てはまる問題ではないだろうかと感じたのだが、これをまとめの言葉としておこう。
引用元
5月末に政府発表の「自殺対策白書」によれば15〜39歳が最多となっている。原因は「抑うつ」で、倦怠感、不眠、食欲不振、体重減少などの症状が発現。独りで抱えこまずに、かならず誰かに助けを求めることが予防につながる
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