廃車同然…高速走る
3月中旬、高速道路で車を走らせていたある男性は自分の目を疑った。隣の車線を走っていたのはプリウス。しかし、その近未来的なボディーはサビで覆われ、数十年も風雨に晒されたかのように朽ち果てていたのだ。
「アフリカにでも迷い込んだのかと思いました。もしくは、場所が東北だっただけに、津波の被害にあった方が思い出の詰まった車を直して乗っているのかなとも……」
同乗者がとっさに写真を撮り、それをニュースサイト「dot.」編集部に提供してもらったのだが、見れば見るほど不可思議な光景だ。そもそもプリウスのボディーの大部分はアルミ製。野ざらしにしてもここまで錆びることは無いはずだが……。
よく見ると車の後部にはURLが書かれている。アクセスした先はどうやら会社のホームページ。真相を知るため、取材をしてみた。
●サビの正体は……
「はい、そのプリウスは確かに弊社の車です。私が運転していました」
電話に出た男性の事情を伝えると、そんな回答が返ってきた。単刀直入に、なぜプリウスがサビまみれなのかを尋ねた。
「実は、あのサビはシートに印刷したものを貼り付けてあるんです。いわゆるカーラッピングというものですね」
男性、服部純也さんが経営する会社「カラップ」は福島県郡山市にあるカーラッピングの専門店だった。カーラッピングというと、アニメやゲームのキャラクターをプリントした「痛車」が有名だが、キャラに限らず、さまざまな模様をプリントする場合もあるという。サビだらけのプリウスは会社のPRのために製作したばかりとのことだ。
しかし、なぜせっかくの車を廃車風に加工してしまったのだろう。
「サビたボロボロのラッピングはアメリカでは『ラット・スタイル』と呼ばれ、古くから人気のある加工なのです。ラットは『どぶねずみ』という意味。本来、フォルクワーゲンやマスタングなどの旧車に施す場合が多いのですが、近未来的なイメージがあるプリウスをサビだらけにしたらシュールで面白いと思ってつくってみました」
サビプリウスのより詳細な写真を見せてもらったが、少なくとも写真で見る限り、プリントとは思えないほどのリアルさだ。
「実際、かなり近づかないとプリントだとわからないと思います。駐車していると触って確かめようとする人もいるくらいですから。でも普通のツルツルしたボディーです」
作り方は、まずさまざまな風合いのサビの画像データを用意し、画像編集ソフトで車の形状をイメージしながら形を整えていく。それをカーラッピング用の白いシートにプリントし、車全体に貼り付けるという。
「サビをいかにリアルにみせるかがポイント。例えば、車が雨に濡れると窓のふちから雨水が下に流れますよね。プリウスの窓枠から垂れるようにサビが描かれているのはそれをイメージしてのこと。納得のいくサビをつくるのに10時間くらいかかりました」
その“サビ愛”には脱帽せざるを得ないが、この車を運転していてトラブルなどはないのだろうか。
「よく福島から東京まで仕事にいくのですが、高速のパーキングで止めるたびに多くの人に話しかけられるので到着がかなり遅くなりました(笑)。週に一度は『水没したのかい?』と尋ねられます。多くの方に関心を抱いていただけてうれしいですね。あと、洗車をしても、ボロボロなのでむなしくなることがデメリットといえるかもしれません」
ちなみに、警察から職務質問をされたことは「“まだ”ない」というが、PR目的でつくったというこのプリウス、効果は抜群のようだ。見た人々がプリントだと気づけば、の話だが……。
サビプリウスの総工費は約70万円。サビ加工はオーダーメードの一点もので、プリウス以外の車種にも施すことが可能だという。確かにまじまじと眺めていると「滅びの美」とも似通った渋さと格好良さがあるような気がしてくる。サビ加工、アリかもしれない。(ライター・小神野真弘)
引用元
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