「できるヤツ」はこの質問
70年代後半から80年代にかけて『欽ちゃんのどこまでやるの!』『欽ドン! 良い子悪い子普通の子』などの冠番組で合計視聴率が100%を超え、「視聴率100%男」の異名を取ったコメディアンの萩本欽一こと“欽ちゃん”。数々のタレントや構成作家を育て、芸能界でも「大将」と呼び、慕う人は多い。
そんな欽ちゃんが、仕事をする上で最も大切にしているのが「言葉」だという。曰く、「言葉遣いで仕事ができるヤツかどうかわかる」とのこと。そして、欽ちゃんが出演者を決めるオーディションで、必ず聞く質問があるという。それによって「才能」があるか、「伸びしろ」があるかわかるのだそうだ。
それは一体どんな「言葉」なのか? 前編記事に続き、本人に直撃した。
* * *
―『欽どこ!』や『欽ドン!』では次々と新しいスターを世に送り出しましたが、出演者を決めるオーディションで必ず聞く質問があるそうですね。
萩本 これを聞けば仕事がどの程度できるかわかるし、芸能界で生きていく才能があるかどうかもわかる、という質問があります。それは、「お母さんは?」という質問。こう聞かれて、「はい、元気でまだ働いています」とか、「今年55歳になりました」とか即答できた人は合格。でも、「えっ、お母さんの何を答えればいいんですか?」と聞き返してくる人も結構いる。こういう人は仕事の現場であまり活躍できないんですよ。
―つまり、質問に質問で答えてはいけないという意味?
萩本 そうそう。何か質問された時、その質問の意味を聞いてくるのは優等生。優等生って、間違えること自体が屈辱なので、何か答える時にどうしても慎重になっちゃう。そこであれこれ相手に確かめようとするのだろうけれど、こういう思考法では新しいことは生みだせない。それから、もうひとつ聞くのは「何色が好き?」。こう聞かれたら、あなたどう答える?
―えっ、え~と、赤、かな…。
萩本 はい、アウト~!(笑) 色だけを答えるのではなく、そこに何か足すといいの。例えば「赤」だったら、「夕焼けの赤」とか、緑だったら「5月の新緑」とかね。さらに言えば、日頃から何かを見た時、それを自分なりに表現するための形容詞を常に考えるようにすると言葉のいい訓練になるんです。あとは、「好きな食べ物は?」というのもよく聞きます。そうすると、「カレー」とか「オムレツ」とか、普通の人は単にメニュー名だけを答えるんだよね。昔、キムタク(木村拓哉)にも質問したことがあるんだけど、彼はなんて答えたと思う?
―う~ん…「スパゲッティ カルボナーラ」! おしゃれそうなので。
萩本 はい、ハズレ! 僕もそういう都会的な食べ物かと思ったんだけど、彼が言ったのは「お母さんのつくったお稲荷さん」。僕はこれを聞いて、「キミこそスーパースターだ!」と言いました。彼のイメージとはほど遠い上に、さらに「お母さんの」と付け加える言葉のセンスがすごい。
―なるほど。でも、言葉の大切さを意識しないままここまで生きてきちゃった人はどうしたらいいんでしょう。人との関係を良くしたり、仕事がうまく回転するような言葉遣いのコツってありますか?
萩本 心配しなくても大丈夫。「言葉は大事」って気がついた時から、自然と言葉に気をつけるようになると思う。それに、幸運を呼ぶ言葉遣いのコツって意外と単純。得をしようと思わず、損なほうを選ぼうと考えれば、気持ちのいい言葉が言える。
やせ我慢をして相手を思いやる言葉を選ぶと、それを理解してくれる人との間に素敵な物語が生まれます。思考は言葉を変えると言うけれど、言葉も思考や行動を変えるんです。
人生はトータルすればひとつの大きな物語だけど、その中に小さな物語がたくさん詰まっている。だとしたら、小さくても素敵な物語をたくさん作っていきたいじゃない。それを実現させるのが言葉なの。
20代には20代、30代には30代のいい物語が作れる。僕は今、70代のいい物語を作るために仕事と学生生活を両立させています。身体はちょっとしんどいけれど、毎日キラッと輝く言葉を探しているので、人生楽しいですよ。
(取材・文/浅野恵子)
■『ダメなときほど「言葉」を磨こう』(集英社新書 700円+税)
引用元
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