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災いの種になる「悪い忖度」をなくすには?

「良い忖度」に賞を、「悪い忖度」には罰を

  • 和田 秀樹

 安倍首相の一連の疑惑に絡んで、官僚の忖度(そんたく)が働いたのではないかという民主党議員の質問がきっかけになって、難しい漢語の「忖度」という言葉が注目を集め、今年の流行語大賞になるのではないかとさえ言われている。

 もともとは相手の心を推し量るという意味の言葉で、福沢諭吉も好んで使っていたようだ。目上の人に気に入られようとして、その意向を推し量るという意味で用いられたのは、2000年代に入って、新聞が役所などを批判する際に用いるようになってからのようだ。

部下が「良い忖度」と判断して行ったことが、結果的に「悪い忖度」だったとなることも。(©everythingpossible-123RF)

“忖度”とはまさに精神科医の仕事

 相手の気持ちを推測するというのは、我々精神科医や心理学者が日常茶飯に行うことである。実際、これに似た用語で共感という言葉が、精神分析の世界でも臨床心理学の世界でもキーワードになっている。

 精神分析の用語としての「共感」とは、本コラムでも何回か紹介したオーストリア出身の精神科医コフートによると、相手の立場に立って、相手の心の中を想像することだ。たとえば、友達が失恋して、自分は恋人なり配偶者との関係がうまくいっているとしよう。こういう際に、何も考えずに、「彼女なんてすぐできるよ」というような慰め方をしないで、自分がもし恋人なり配偶者に立ち去られたらどんな気持ちになるかを想像する。これが共感である。

 精神分析の世界でなくても、臨床心理の世界でも共感はキーワードだ。『嫌われる勇気』で日本でも有名になったオーストリアの精神科医アドラーに言わせると、共感とは「相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じること」である。コフートと似た立場と言える。カウンセリング心理学のパイオニアのロジャーズも共感を似たような意味で、心の観察手段と考えている。

 このように相手の心を想像することは、臨床心理学の基本である。フロイトの時代であれば、夢などの分析を通じて、患者が気づくことのできない無意識の世界を想像するのが精神分析家の仕事だった。しかし今は、相手の立場に身を置いてみて、相手が意識レベルでどんなふうに考えているのか、感じているのかを、治療者が推測する。これは、まさに忖度と言えるだろう。

 もちろん、通常は、この忖度(共感)は人間関係を円滑にするための重要なツールとされているし、以前はやったEQ(心の知能指数)の理論でも中核概念となっている。ビジネスシーンであれ対人関係であれ、何も忖度しないで人と接するより、多少は相手の気持ちを想像するほうがいいのはむしろ当たり前のこととさえ言える。

行動を伴う忖度を期待する日本人の「甘え」

 ただ、今回問題になっているのは、役人が安倍首相の気持ちを推測しただけでなく、それを行動に移したことだろう。つまり、忖度が通常の日本語だと「気を利かす(こと)」という意味で使われたことになる。

 安倍氏なり、官邸サイドが実際に圧力をかけたのかは定かでないが、相手が気を利かせることを期待する文化が日本人にはある。実際、豊臣秀吉が懐で信長の草履を温めたエピソードのように、日本では「気が利く」人間が出世するという例は枚挙にいとまがない。

 日本の精神分析医の著による、最初のミリオンセラー『甘えの構造』は、そのような日本人の心理を論じた本だ。一般書としても広く読まれたが、当初は文化人類学者に人気のあった本である。

 例えば暑いなか、訪ねてきた人の気持ちを忖度するだけでなく、実際に冷たい水を言われなくても差し上げる。このように相手の心理ニーズをおもんぱかり、さらに気の利いた行動をするのが日本人の特性なのだと本書では論じている。

 本書の中で土居氏は、「甘え」を定義していない。日常語として日本人ならニュアンスで分かると考えたためだ。ただ、海外向けの論文では、土居氏は甘えについて、「他の人の好意を当てにしたり、それに依存することのできる個人の能力および特権」と定義している。

 甘えがなぜ能力や特権なのかというと、宴会を例にとると分かりやすいかもしれない。

 宴会の席で自分のビールが空になったとしよう。その際に、甘える「能力」がある人なら、誰かが注いでくれるだろうと気長に待つことができる。ところが、それがないと「どうせ、俺なんか相手にされていない」と思って、手酌を始めてしまう。それが場の雰囲気を壊してしまうわけだ。ただ、この場合、手酌をした人の大人気ない態度だけが責められるのではなく、ビールが空なのに気づかない周りの人の「気の利かなさ」も責められる。要するに日本人には甘える「特権」があるのだ。

甘え下手は鬱になりやすい

 さて、この『甘えの構造』がベストセラーになって以来、「甘え」や「甘えの構造」が悪い意味で使われるようになった。官民の癒着などが見つかると「甘えの構造」と断罪されるわけだ。

 ところで、前述のように忖度は共感につながるのでむしろ好ましい態度であるのと同様に、甘えというのも土居氏に言わせると、むしろ望ましいこととされる。むしろ、精神病理のうえでまずいのは「甘えられない」ことである。

 人の好意を素直に信じられなかったり、それに拒絶的だったりするから、すねたり、ふてくされたりするし、被害者意識が強まってしまう。実際、人に頼れず、自分で背負いこんでしまうような人(たとえば介護や仕事など)や、他人に遠慮して愚痴を言えないような人が鬱になりやすいのは、精神科医なら誰でも感じることだろう。

 当初、「甘え」の心理は日本特有のものと考えられたが、日本人でなくても、暑い中、頼んでもいないのに冷たい水が出てくればうれしいように、自分の心理ニーズを満たしてほしいという心性を持つのは万人共通のものだ、という認識が広がってきている。

 晩年になって、土居先生の「甘え」理論は国際的に再評価され、日本人の打ち出した概念として初めて、国際精神分析学会のシンポジウムのテーマにもなっている。

 フロイトの時代は禁欲原則といって、精神分析家が好意から患者の心理ニーズを満たしてあげるのは望ましくない(つい、そうしてあげたくなるのに我慢するので、禁欲原則というわけだ)と禁じられていた。しかし、コフートは患者の心理ニーズを満たすことが治療的だと主張し、近年ではアメリカ精神分析学界の主流派となっている。

 サバイバルのための思考法という点では、甘えも忖度も精神科医として大いに勧めたいものであることは確かだ。

悪い忖度をいかになくすかがサバイバル術

 維新の会の党大会で、松井大阪府知事が「忖度には、悪い忖度と良い忖度がある」と言明したそうだが、結果的に悪い忖度になるものはあり得るだろう。

 安倍首相は、役人の忖度はないと言い切ったが、相手の心を決めつけることはできない。役人が首相の意向を推測するのも、松井氏が言うように政治家が国民の意向を忖度するのもむしろ当然のことだ。「(相手が勝手にした)忖度はあったかもしれないが、こちらから要請したり、圧力をかけたことはない」と言うほうが明らかに正確だろう。

 地位が高いものには、その部下にあたる人間は必ず忖度が起こると考えるのが、むしろ経営者や管理職の人間の心得るべきことだろう。不快な思いをさせたくないという忖度から悪い情報を上げない、ということは珍しいことではないはずだ。

 東芝の不正経理にしても、三菱グループのリコール隠しにしても、社長が直接命令したというより、部下が忖度したというほうが真相に近いだろう。しかし、それを見過ごしたため(あるいは、喜んで受け入れたため)経営危機を招き、経営者のクビは飛び、莫大な損害賠償まで(経営者個人に対するものも含めて)請求されたのは、事実である。安倍首相にしても、野党が弱すぎて政権が盤石だからいいようなものの、通常ならこの手のスキャンダルが出れば、自分のクビの危機にひんするはずだ。

 下手な忖度が働かないように工夫をする名経営者もいる。コマツ相談役の坂根正弘氏は社長時代、悪い情報から上げさせるように命じたという。みんなが機嫌取りをして、裸の王様になるほうがはるかに危険と考えたからだろう。

 確かに部下に気を利かせてもらったおかげで助かったという「良い忖度」もあるだろうが、「余計なことをしてくれた」という悪い忖度も間違いなくある。

 コンプライアンスが厳しく、またネットなどを通じての内部告発のリスクも高い現代社会は、「悪い忖度」をいかになくしていくかがサバイバルのための重要事項と言える。

悪い忖度を誘発しないために

 東芝を含め、「悪い忖度」が横行する会社には、そのような忖度を容認する企業文化があると私は見ている。

 要するに、悪い忖度をしても、社長や上層部の機嫌が良くなったり、その見返りがあったりするような文化だ。茶坊主みたいな人ばかりが出世するようだと、まねをする人が次々と出てくるだろうし、悪い情報が上層部に上がらなくなる。

 安倍首相にしても、自分の友達が優遇されればあらぬ嫌疑をかけられるからということで、「下手な忖度をするな」という下達があれば良かったのだろう。逆に例えば森友学園事件で、払い下げの当事者とされる近畿財務局長が国税庁の長官に就任するのを見れば、安倍氏の友達案件はなるべく便宜を図ったほうが出世につながるというインセンティブになってしまう。

 悪い忖度というのは、結果で判断されるべき(気を利かせたつもりなのに、企業を窮地においやるとか、損失を与えるなど)ものなのだろうが、社会的に見て悪い忖度でも、自分から見て良い忖度だと思うことはあり得る。不正経理をしてまで利益を出したり、身内ばかりを優遇することでイメージダウンにつながりかねないのに、忖度を受けた本人がそれを喜んでいる(その人にとっては良い忖度になっている)ようでは、悪い忖度が横行してしまう。

 そういう意味で加計学園の事件などは、安倍氏の意向とか官邸の圧力とかを今の段階であれこれ詮索するより、結果で判断するほうが、安倍氏や官邸の意向の推測が妥当なものとなるだろう。内閣人事局を通じて、この認可や補助金に積極的に動いた人が、その後で出世するのなら、官邸や安倍氏がそれを「良い忖度」と考えている可能性がそれだけ高いと言えるからだ。国会の会期が延長されなくても、今後のフォローで追及できることはまだまだ残っている(その頃にマスコミも国民も忘れているのが問題なのだが)。

 政界のことはともかくとして、信賞必罰ではないが、良い忖度と思われるもの(結果論の話だが)には賞を、逆に、機嫌取りとしか思えないものや、意図的に悪い情報を隠すなどの悪い忖度には罰を与えるようにしないと、悪い忖度の横行する風土になってしまう。

 そのリスクが高まっていることだけは、経営者や管理職の人間は心しておいた方が賢明だろう。

引用元

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122600095/061500011/?ST=smart
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 班目幸寛(まだらめゆきひろ) フェイスブック ページへ  友達申請を是非♪  1978年生まれの宮城県出身。  元々は建築科、専門学校卒業後、建築関連の仕事に就いたがが、当人がADHDの気があり(白に近いグレー)、その時の苦労を元にカウンセラーのキャリアをスタート。  カウンセリングのメインは発達障害のカウンセリングだったが、カウンセリングを行うにつれ幅が広がり『分かっているのにできない、やめれない事』等、不倫の恋、経営者の意思決定なども行う。(相談案内へ)  趣味はバイク・自転車・アウトドア・ミリタリーグッズ収集・国内外旅行でリスクティカー。 『昨日よりも若くて、スマート』が日々の目標。  愛読書はV,Eフランクル 放送大学 心理と教養卒業 / 臨床心理プログラム 大学院 選科履修

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