がん患者を雇用するにあたり、不安や悩みがあるという企業が多くあります。休職や欠勤への対策、負荷のかけ方といったことなどについての相談先が少ないからです。がんとともに生きる時代と言われる一方、中小企業では3人に1人が退職をしている現実を改善するにはどうしたらいいのか、考えてみました。

▼患者の9割が口頭などで治療概要を説明、企業も理解している

▼8割強の企業が「がん患者の雇用に関する不安や悩み」を抱えるが、相談窓口が無い

▼結果として3人に1人が退職をしているのが中小企業の実情

前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201609096837.html)は、中小企業経営者が「がんと就労」という課題をどのように考えているのかについてまとめてみました。今回は、その中から、「がん患者さんを雇用したことがある」中小企業経営者50社の意見を報告します。

調査は、一般社団法人CSRプロジェクトが中小企業経営者(個人事業主を含む)200社を対象に実施したものです(2016年4月)。中小企業の定義は中小企業基本法で定めた定義に基づいて抽出しています。

▼中小企業庁 http://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01_teigi.htm#q1

●がん患者を雇用したことがある企業の対応

がん患者本人から「治療計画の説明があった」と回答があったのは40社(80%)、その方法は「医師からの診断書による説明」が18社(36%)、「本人作成の書類による説明」が5社(10%)、半数は、「患者本人から口頭で説明」されていることがわかりました。

こうした説明に対して企業は、その後の就労状況を考えるのに「よく理解できた」が13社(26%)、「理解できた」が32社(64%)と、9割にも達しました。

【治療への理解度】

●8割強の企業が「がん患者の雇用に関する不安や悩み」を持つ

本人から治療に関する説明を受け、理解しているにも関わらず、8割強の企業が「がん患者の雇用に関する不安や悩み」を持っており、「不安や悩みはなかった」と回答した企業は8社(16%)しかありませんでした。不安や悩みの内容は、「休職・欠勤期間の欠員対策」が27社(54%)と最も多く、次いで「就労上の配慮事項・負荷のかけ方」が21社(42%)、「復職可否・時期の判断」が20社(40%)となっています。また、「本人からの説明」(20社、40%)や「本人への接し方」(16社、32%)などコミュニケーションに関する悩みもありました。

【がん患者の雇用に際して感じた不安や悩み】

こうした不安や悩みについて「相談した」と回答した企業は11社(26%)しかなく、「相談しなかった」企業は31社(74%)と7割強の企業が「がん患者雇用」の不安や悩みを抱えたままの状態です。「相談した」と回答した企業の相談先は、「顧問の社会保険労務士」が(7社、63.6%)、「顧問の税理士・弁護士」が(5社、45.5%)。本来であれば、50人未満の小規模事業所の保健指導は、産業保健総合支援センターの地域窓口(通称:地域産業保健センター)が無料で提供するという位置づけになっています。しかし、企業経営者の相談先には、新規雇用など日常業務を通じてより身近な存在になっているハローワークがあがっています。今後は、産業保健総合支援センターの周知とあわせて、ハローワークとの連携も必要と考えられます。また、社会保険労務士会の都道府県会や支部の間には、まだまだ「がん経験者の就労支援」に関する意識に温度差があります。誤った認識により就労継続を阻害することがないよう、研修の普及が必要です。

【不安や悩みの相談先】

▼厚生労働省・地域産業保健センターhttp://kokoro.mhlw.go.jp/health-center/

●3人に1人が退職している中小企業の実情

がんと診断された従業員に対して「就労上の対処や配慮を行った」企業は44社(88%)。行った対処や配慮は、多い順で、「休職」が22社(65.9%)、「短時間勤務」19社(43.2%)、「業務量の調整」16社(36.4%)でした。この他、「時差出勤」、「労働日数の減少」、「業務量の調整」など、治療状況や体調に合わせた対処や配慮を9割の企業が行っていました。

ところが、こうした企業側の努力にも関わらず診断後の就労状況は、「自己都合退職」が9社(18%)、「休職期間満了による自然退職」が4社(8%)、「解雇」が3社(6%)と、退職率は32%、つまり、3人に1人が離職をしていました。働き続けたケースでは、「以前と同様の形で職場復帰」が23社(46%)、「働き方を変更して職場復帰(時間短縮、身分変更など)」9社(18%)。身分変更などは減給を伴うものですから、半数の患者は収入が下がっていることも予想されます。

【行った対処方法】

【該当従業員の就労状況】

第2回の連載(http://www.asahi.com/articles/SDI201608094208.html)で、患者の自分の治療への理解度、すなわち「患者力」の大切さについて紹介しました。企業は配慮もしている、治療内容も理解している。でも、3人に1人が働き続けられていないという現状は、この「患者力」との関係があると私は考えています。復職後、職場に本人が伝えているのは「病名、治療概要」といった内容で、企業側が知りたい「配慮事項、見通し、本人の思い」とはギャップが生じているのではないかと推測できます。

私の会社(キャンサー・ソリューションズ株式会社:http://www.cansol.jp/)では職業紹介もしているため、たくさんのがん患者さんと面接する機会があります。その際、多くみられる自己紹介が「私は○○がんのステージ○で、手術と抗がん剤治療を半年間受けました。現在は経過観察です。」といったプレゼンテーションです。雇う側とすると「それは理解した」となります。しかし、「だから会社はどうしたら良いのか?」、そもそも「うちの会社で何をしたいの?」といったことが見えないケースが多くあります。ステージなどという単語を知っている雇用主がどれだけいるでしょうか?「病名」や「できないこと」ではなく、「私はこういう仕事ができる。そのためには、こういった働き方が必要」といった、「できること」を患者は伝えてほしいと思います。私も初発治療が終わり復職したとき、職場の上司に「病名や治療概要」を診断書や書籍、資料をつかって説明しました。今から思うと、きっと「伝わっていなかっただろうな」と思っています。

「言っていることは分かった、でも、実務レベルでは、どうしたら良いのかわからない」のが、中小企業のホンネ。もともと少ない人数で業務をこなしているのが中小企業、社員はみんなオールラウンドプレーヤー。オールラウンドプレーヤーが欠けたときの対策が分からない。また、治療で休んでいる間、同僚たちは欠員補充のために120%ぐらい多く働いていたでしょう。いざ患者が戻ってきて「ようやく戻ってきた!」と思ったら、通院がある、体調が不安定、以前のように動けないことがあります。そうすると、職場の人たちのストレスの矛先は、患者さんに向かってしまいます。復職してから1年以上経過してから退職してしまう人が多いのも、こういった職場のギクシャクした関係が背景にあると思います。

●いま、関わり合う皆ができること

働き方への思いや、社会人基礎力と言われるものは、本人が自分の中で考えないとなかなか整理ができないものです。患者が復職する際には、まずひと呼吸をおいて、これからの①働き方を考える上で配慮してほしいことがら(時短勤務、残業量、職務内容など)、そして、②配慮が必要な期間、③働くことへの思い(どう働いていきたいのか)の3つを整理しておくことがとても大切です。

また、企業は、決まり事は作らず、1年間ぐらいは互いのコミュニケーションを密にして、信頼関係を再構築していくことが大切です。企業は、患者は「職場へ迷惑をかけた」という思いや、葛藤を抱えて職場に戻ってきていることを忘れないでください。

医療従事者は、できないことばかり(禁忌事項)ではなく、その「対処方法」を伝えてください。もし、「対処方法」がわからないときは、患者会やサロン、院内の相談窓口へつないでください。

企業の相談先がないというこの調査結果を受けて、私たち一般社団CSRプロジェクトでは、企業や相談支援センターの相談員向けの電話相談の窓口を立ち上げました。11月からスタートします。事前予約制となっていますが、悩まれた方はご利用ください。

▼サポートコール:http://workingsurvivors.org/sp-call.html

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【サポートコール】

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ)一般社団法人CSRプロジェクト代表理事
東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。